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wabi

Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

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★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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生きぬいている野良猫たちの哀切物語

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赤トラの真意

この日私は、久しぶりに早朝の海岸へ足を運んだ。
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遥かに富士が遠望される。この季節、富士は靄に隠れてめったに姿を見せない。
これを吉兆だと思いたいが、“好事魔多し”ということも考えられる。


海岸には白い波頭を立てて大きな波が打ち寄せている。
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この波はサーファーにとって間違いなく吉兆であり朗報だ。


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海岸には波が起こす海鳴りが響きわたっている。


その波音に負けじと、大きな鳴き声をあげる猫がいた。
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最近海岸に棲みついたニューフェースだ。


仄聞したところによると、5月の初旬にこの場所へ現れ、以後そのまま居着いたという。
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被毛の種類は、茶トラより “赤トラ” と呼んだほうが適切かもしれない。
ちなみに性別はオスで、去勢手術の痕が認められる。



持っていたカリカリを与えると、赤トラはがつがつと食べ始めた。
食器が置いてあるからには、食事の世話をしている人がいるはずだ。

120516-06.jpg
このといも、一人の女性が現れ、食事している赤トラを見ると「あんまりあげてもねぇ」といって立ち去った。


そして所在無さそうに海を眺めているこの男性も、話を訊くと赤トラにエサを与えるために海岸へ来たという。
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悄然とした男性の後姿を見ていると、何だか自分が酷く悪いことをしたような後ろめたさを感じてしまう。
猫にエサを与えて、こんな思いにとらわれたのは初めてだ。



人目につく場所にいるからということもあるが、この猫が多くの人に愛されている理由は、それだけではないようだ。
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僅かな間しか接していない私にも伝わってくる、懐こく穏やかな気質のせいだろう。


さらには、この猫が抱えるバックストーリーを感じ取っているからだと思われる。
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その人馴れした様子から、最近まで飼い猫だったことは、誰が見ても明白だ。


そして飼い猫がいくら迷ったとしても、こんな場所へ自ら来ることなどあり得ない。
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「お前も酷薄なニンゲンの手によって、ここへ遺棄されたんだろ」


そんな目に遭っても、人を毛ほども警戒しない猫の姿に接するたびに、私は暗然とした気持ちになる。
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いくら最近まで飼い猫だったとはいえ、こんな目立つ場所に居つづける赤トラの真意を理解できない読者も少なくないだろう。


過日、行方不明になった愛猫と数日後に再会を果たした私には、ある程度推察できる。
赤トラの秘めた決意が‥‥。

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散歩中の犬がそばに来ても、逃げることも敵意を見せることもなく、泰然と構えている。


たとえ元飼い猫だとしても、この大胆不敵な態度は驚嘆に値する。
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体の下に前足を折りたたんだこの座り方は、一般的に“香箱座り”などと呼ばれ、無警戒で相当リラックスした証である。何故なら危険が迫った場合、この体勢では瞬時に動けないからだ。


よしんば、この犬なら襲ってきても、たやすく逃げ切れるという自信の表れかもしれない。
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あるいは元の家で、犬と同居していた可能性も考えられる。


そんな赤トラを、スマホでローアングル撮影する男性。
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ちょこまかしない赤トラは、被写体としても人気があるようだ。


この男性も猫好きなのだろう、撮影を終えると、赤トラを優しく撫ではじめた。
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赤トラもその男性の行為に応えるように歩み寄ると、足許へうずくまった。


猫自身もその人が自分にどういう感情持っているかを、敏感に察知する。
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朝陽を浴びて輪郭を際立たせた眼の前の情景に、私の心は和んだ。


そこで私は男性に、顔をぼかす条件でブログへの写真掲載の許可を申し出た。
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すると、そのブログ知ってますよ。この間、迷い猫の捜索願いが載っていたでしょ、と男性はいった。
さらに、「顔を出してもいいですよ」と快諾してくれた。



この場を借りて、改めてこの男性に謝意を述べたい。
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ブログへの写真掲載の件もだが、寄る辺ない赤トラに優しく接してくれていることへの感謝だ。


海辺はサーファーの数がにわかに増えてきた。
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海から目を戻すと、先ほどの男性の姿はなく、赤トラがぽつねんと佇んでいた。
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時刻は6時半を過ぎ、会社勤めの人がそろそろ海岸から引きあげる頃だ。


だが赤トラはいくら優しくされても、人の後を追おうとはしない。
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その潔い態度に、私は改めてこの猫の真意を垣間見た気がした。


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やがてベンチにいた人たちも次々と立ち去り、赤トラと私だけが残された。


私が感知した赤トラの真の願い。本来ならそれが叶うことを祈ってやりたいのだが‥‥。
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「お前のその願いは、おそらく‥‥」


しかし私はこれ以上、赤トラの心情に踏み込むのをやめた。
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お前の真意を見通したなんて、私の思い上がりだ、きっと。


第一先のことなど誰にも分からないし、この世は何事も起こり得るのだ。
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私は自分にそう言い聞かせながら、海岸を後にした。



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