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wabi

Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

⇒旧ブログはこちら

★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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2010年1月23日
東京都荒川区東日暮里で行方不明
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2012年8月5日
名古屋市緑区姥子山鳴海グランドで
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海岸で暮らすということ (前編)

地球は秒速30Kmで太陽を中心に公転している

時速に換算すると10万7000Kmになる。


宇宙ロケットの速度が時速4万Kmほどだから、時速10万Kmは途方もない速さである。

が、当ブログは無謀にも時速10万Kmの公転に逆らい、時計の針を逆回転させることした。

「ネタが尽きたのだろう」と穿った見方をする読者もいるだろう。

ネタが完全に払底しているわけではないが、たしかに残りはわずかしかない。

なんとなれば、体調不良のせいで以前のように頻繁に海岸へ行けない状態が続いているからだ。

しかし季節の移ろいを無視し、なおかつ逆行するのには別の理由がある。


ということで、季節は再び半年前の夏にもどる‥‥。
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この日海岸で出会ったトイプードルの『 ルイちゃん 』。
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いくつかのきっかけがあって『 野良猫ブログ 』を運営している私だが、実は犬も大好きだ。
もし犬と猫の立場が入れ替わっていたら、私は間違いなく『 野良犬ブログ 』を立ち上げていただろう。



それはともかく、飼い主さんに写真掲載の承諾を得た際に、ブログの更新が遅れぎみだと言い添えたのだが、まさか発表が半年も先になるとは私自身も思っていなかった。
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「ルイちゃんごめんね、君の写真を載せるのが遅くなって。また海岸で会おうね。その時はサマーカットじゃない姿を撮影させてね」


こうしてルイちゃんをブログで紹介することも公転に逆らった理由のひとつである。


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それは唐突な出現だった‥‥。









私が防砂林脇の遊歩道を歩いていると、なんの気配も感じさせずにひとりの海岸猫がいきなり目の前に現れた。
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それは『 リン 』だった。
「リン、どうしてこんなところにいるんだ?」この場所は以前棲んでいたエリアからずいぶん離れている。



だが私の問いかけにリンは口を閉ざして何も答えようとしない。その代わりにいつもより勢いよく身体をすり寄せてきた。
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エカシさんのテント小屋の側にいれば食事ととっさの避難場所には困らないはずなのに、何故こんな遠くまで移動してきたのだろう。


実はリンがこの辺りにいると仄聞したので来てみたが、こうもすんなり会えるとは思っていなかった。
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私の手がいつもより大きく見えるかもしれないが、それは相対的な錯覚で、リンの身体がそれだけ小さいということだ。


視界の隅に動くものがあったので、そちらに目をやると、そこには見知らぬ仔猫がいた。
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その容貌と被毛の柄から、この仔猫がリンの子供だということはすぐに分かった。


よく見ると頭はキジトラ柄、そして体はサバトラ柄と微妙に色分けされている。
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被毛の種類は面積の広狭の差で決まるはずだから、この子は『 サバ白 』と呼ぶべきだろう。


サバ白の子の視線は私を通り越して母であるリンへ注がれている。
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そのリンはというと、子供に背を向けてさっきから毛繕いに余念がない。


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したところが、リンは突然毛繕いを中断して険しい表情で振り返った。


と、つぎの瞬間だった。私の脇を何かが風のように通りすぎたのは。


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それは先ほどのサバ白の子が駆けぬけた気配だった。
どうやら母子のあいだに私が割って入ったのでにわかに不安になったようだ。



これがニンゲンの子供なら「ママ、ママー」と半べそをかきながら走り寄っているところだ。
しかし、野良猫の子供は不用意に声をあげない。かといって初見の私を警戒していないわけでは、けっしてない。

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それとは逆に見知らぬニンゲンの出現に怯えているからこそ、あえて鳴き声を発しないのだ。


『 野良猫は余程のことがない限り鳴かない 』。

これは私の経験則から得た野良猫の実態だ。

ニンゲンも含めた天敵の注意を引かないための後天的な習性と推察され、多くの成猫にも見られる。
(稀に例外的な野良猫もいる)

野良猫が現在の厳しい環境を生き抜くためとはいえ、思えば実に哀しい習性だ。


加えて野良猫の母親は、必要以上に我が子を甘やかさないようだ。
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この態度は外敵の多い野良猫にとって、子離れ ・親離れを早い時期に達成させるためかもしれない。


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そのへんの事情を理解しているのか、サバ白の子も思いのほかあっさりと母へ甘えるのをあきらめた。


そしてサバ白の子は再び私の脇をすり抜けて遊歩道の奥へ歩いていく。
だがその足取りは重い。やはり母への想いがあるのだろう。

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一方リンは毛繕いを止めて我が子の後ろ姿をじっと見つめている。


ふと立ち止まったサバ白の子は、ためらいがちに後ろを振り返ろうとした。
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サバ白の子はしかし、何かを振りきるように前方へ向きなおると、ゆっくり歩を進め始める。


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そしてそのまま灌木の中へ姿を消してしまった。


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我が子が安全な場所へ隠れたことに安堵したのか、リンはにわかに表情を弛めた。


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10分ほど経ったとき、サバ白の子が灌木の中からひょっこりと姿を現した。
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その挙動から何かを捜している様子が見てとれる。


案の定、サバ白の子が希求していたのは “母の愛情” だった。
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リンは煩わしそうに我が子を押しのけるが、もちろん本気ではなく、母子でじゃれあっているという感じだ。


ふたりが突然動きを止め前方を注視する。どうやら私の背後を誰かが往来したようだ。
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海岸を訪れる人のほとんどは海辺沿いの道路を利用し、薄暗い遊歩道をとおる人はあまりいない。それでも他のエリアに比べればここは人目につく。


リンは何故そんなリスクを負ってまで、このエリアで子育てをしようと決断したのだろう?

かつてこのエリアでは三毛猫が不審死を遂げている。

給餌するため早朝にエサ場を訪れたボランティアさんは、両目を見開いてすでに冷たくなっていた三毛猫を植込みのなかで発見した。

外傷は無かったと聞いているし、前日までは普段と変わりなく元気だったそうだから、病死の可能性も低い。

吐瀉物の有無は聞き漏らしたが、状況からみて “毒殺” されたのではないかと私自身は思っている。

海岸には灯りがなく、日が暮れると防砂林は闇につつまれてしまい、海岸猫を虐待しても誰かに見咎められる懸念はない。


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だから街中ではありえない手口で虐待がおこなわれる。

深夜であっても、やはり繁華街や住宅街で野良猫に対して『 ボウガン 』や『 エアガン 』を使うことには二の足を踏むのだろう。

サイコパスといえども‥‥。

実際、この海岸ではボウガンを使用した海岸猫殺傷が何件もあったとボランティアさんから聞いたし、少年がエアガンで海岸猫を狙い撃ちしていた話を目撃したホームレスの人から教えられた。

そしてエカシさんからは、嬲り殺された3匹の仔猫が水路に浮かんでいた話を聞かされている。

最近だと、ランやリンがかつて棲んでいたエリアで巧妙に仕掛けられた『 毒エサ 』を口にした仔猫が命を落とした。

さらに、動機が分からない『 エサ場荒らし 』や海岸猫の食器に人糞を入れるなどの嫌がらせをする輩、そして大型犬のリードを外して「行け!」と命じて海岸猫を襲わせる輩までいる。

当ブログを見て、海辺で暮らす海岸猫は街中で暮らす街猫より恵まれていると感じた方がいたとしても、上記の事実を知ればその認識が間違いだと分かってもらえるだろう。


防砂林で暮らす海岸猫たちは、その環境が内包する危険性に常にさらされている。
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この世に生を享けて間もないこの仔猫にしても、いつ何時サイコパスどもの毒手にかかって命を奪われるか分からないのだ。



〈つづく〉



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あなたのちょっとした配慮で小さな命が救われる。


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青天の霹靂 (後編 2)

シンゲンはシロベエに注意を向けながら、しばらく私にまとわりついていた。
しかし私が突っ立ったたままでいると、シンゲンは私から離れて駐車場の中央へゆっくりと進んでいく。

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シンゲンの後ろ姿を眺めながら私はふと思った。シンゲンとしては私を自分の味方につけて、シロベエを追い払ってもらおうと目論んだのかもしれないな、と。


でもシンゲンがそう望んでいたとしても期待に添うことはできない。なんとなれば、私はすべての海岸猫を同じように想っていて、差別やえこひいきはしないからだ。
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さらに私は問わず語りに話しつづける。ただし、あくまでも心の中で、だ。


そもそも野良猫自体がニンゲン社会から差別や迫害をうけているのに、皆が平等であるべき猫社会に偏見や分けへだてを持ち込むわけにはいかない。
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シンゲンは生まれながらの野良猫なのか、それともニンゲンの手によって遺棄されたのか分からないが、彼にしてもそのことで謂れのない差別やいじめを受け続けているはずだ。


この世に野良猫が存在すのは、自分たちのせいだということをすっかり忘れてしまった身勝手で愚かなニンゲンたちによって。
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シロベエの気配を察知したのか、シンゲンはいきなり胡乱な目つきで振りかえる。


が、シロベエはもとの場所に身動ぎもせずに腹ばっている。
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ただ冷めた視線をシンゲンに投げかけているだけだ。


猫社会で相手の目を凝視することは “敵意” があるとみなされる。
(ニンゲン社会で言うところの『 ガンをつける 』とか『 ガンを飛ばす 』と同じ行為だ)
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したがって普通は劣位の猫が先に目をそらせる。このときのシンゲンのように。


ただし、対ニンゲンの場合はその意味合いが違ってくる。
“猫の方から”
ニンゲンの目をじっと見つめてくるとき、それは親和感を表すアイコンタクトだ。

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また何かを希求しているときも同様の行動をとる。飼い猫の場合は「おなかが減った」とか「暇だから遊んでよ」と訴えているのだ。


ではシンゲンが私を一瞥したのにはどんな意味があるのか?
やはり自分に敵愾心を向け続けるシロベエをなんとかしてほしいという願いのこもった目顔だと思われる。



私が応えないでいると、シンゲンは耳を倒したままあらぬ方を見つめ始めた。
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その渋面をファインダー越しに見ながら私は彼の胸中を推し量った。もしかしたらシンゲンの胸のうちには、数ヵ月前まで “兄” のように慕っていたコジローの姿が蘇っているのかもしれない。


コジロー、その端正な面差しと同様に性格は至ってクール。エリアの海岸猫とも深い友誼を持たず、たいていは単独行動をとる。
小次郎#14
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いっときは食事が終わると、さっさと隣接するエリアまで出張っていって独りで海を眺めていた。ニンゲン社会で言うところの “人付き合いの苦手なタイプ” なのだろう。


しかし、こう言い換えることもできる。“仲間と群れないで孤独を好む”、猫が本来持っているこの習性を律儀に遵守している猫らしい猫だ、と。
小次郎#16
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彼が持つ顔貌と性格からの連想で、私はこの海岸猫を『 浜の伊達男 』とひそかに呼んでいる。


その浜の伊達男に心境の変化ともいうべき “事件” が起こったのは2014年の夏だ。
小次郎#18
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コジローの性格からして、おそらく最初は大いに戸惑い、そして簡単には受け容れなかったと思われる。


“その事件” とは新参者シンゲンの急接近だ。
小次郎#20
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シンゲンの意図ははっきりしないが、エリアの最古参であるコジローと交誼を結べば、ここでの生活が安楽になるというしたたかな計算があったのかもしれない。


シロベエが幾度もコジローに近づこうと試みているが、相性が合わないのかコジローは拒み続けている。
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ふたりが仲良く連れ立って歩く光景を初めて目の当たりにした私は、「あのコジローが、仲間とつるんでいる!」と心底驚いた。


シンゲンは自分の立場を心得ていて、けっしてコジローの前にしゃしゃり出ず、常に距離をおいて追随している。
小次郎#23
その様子は前述したように、ドラマ『 傷だらけの天使 』における『 修 』と『 亨 』の関係を髣髴とさせるものだった。

けれどシンゲンが兄貴と慕うコジローは海岸を去っていき、そして二度と戻ってくることはない。


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シンゲンはそれまでいたエリアを何らかの理由で離れ、流浪の身になったと思われる。


その後どういう経緯でこのエリアにたどり着いたのか定かではないが、とにかく彼はここに定住することを望んだのだ。
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当初は強面ぶりを発揮して威張っていたが、それがこけおどしであると露呈するのに、あまり時間はかからなかった。


シンゲンの虚勢を看破したのは、誰あろう今睨み合っているシロベエだ。それが前回も紹介した猛追シーンである。
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シンゲンは毛繕いを中断して視線をシロベエへ送る。


そのシロベエもまた、シンゲンから目を離さない。ただ当初の昂りは収まっているようだ。
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それにしてもシロベエのこの執念は、いったい何処から生まれているのだろう?


私などがうかがい知れない大きな確執がふたりの間に介在しているのだろうか。
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泰然とかまえているシンゲンだが、穿った見方をすればこれも彼一流のやせ我慢かもしれないな、と思えてきた。


というのもさっきから見ていると、どうも毛繕いがぞんざいなのだ。
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猫は被毛を清潔にするのはもちろんのこと、体温調整や静電気除去のためにも毛繕いをするが、もうひとつ重要な動機がある。


それは気持ちを鎮静させるという動機だ。家猫が飼い主に叱責されたときや、バツの悪いときにいきなり毛繕いをするのはそのためだ。
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どうやらシンゲンの毛繕いの動機は後者のようで、心も別のところへ向いているようだ。


シロベエは相変わらず冷めた表情でシンゲンを見つめている。
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それも視軸をまったく動かさず、まるでレーザービームを照射するように視線を送っている。


シンゲンはおもむろに起き上がると、ゆっくとした足取りで駐車場の奥へ歩きはじめた。
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虚勢を張ることでなんとか矜持を保っていたシンゲンだったが、シロベエの凝視についに屈したようだ。


そして‥‥。
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水上バイクの下をくぐって駐車場から出ていった。


しかしシンゲンが駐車場から立ち去っても、シロベエは視線を送りつづける。あたかもシンゲンの幻像がそこに残っているかのように。
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白猫の『 白兵衛 』、この海岸猫もまた、何処で生まれどういういきさつで海岸へやって来たのか、まるっきり分かっていない。


シンゲンの気配が完全に消えたのを確認できたのか、シロベエはいきなり身体を翻すと車の下へもぐり込んだ。
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その光景を眺めていた私は「シロベエ、できれば車の下で寛ぐのはやめてくれないか‥‥」と思わず独りごちた。



今、日産自動車が『 #猫バンバン 』という
プロジェクトへの参加を募っている。


プロジェクトへの参加といっても、自動車に乗る前にボンネットを “バンバン” とたたき、
車の下やエンジンルームに猫がいないか確認する運動へ
賛同し実行することを呼びかけているのだ。

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今なら抽選で『#猫バンバン マグネットステッカー』がもらえる。


実際、猫は駐車中の車に強く惹かれる。

なんとなれば、冬場の凍てつく寒さをしのぐのに温かい車のエンジンルームは格好のねぐらだからだ。

そして、夏場の焼けつくような陽射しを避けるのに車が作る影は絶好の避難場所だからだ。

このエリアでも『 ミイロ 』と『 シシマル 』が車の下にいたところを発進したその車に轢かれて命を落とすという事故が起こっている。

また2011年1月、『 カポネ 』という屈強な体躯をした海岸猫が車のエンジンルームに入り込み、始動したファンベルトで頭と脚に大怪我をした。
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カポネ03b
当初は故意による虐待かと思われたが、傷の形状などから車のファンベルトによる事故ではないかという結論に至った。

事故に遭ったのが成猫のカポネではなく仔猫だったら、もっとひどい怪我を負っただろうし、状況によっては死んでいたかもしれない。

読者のなかには車を運転する方も多いと思うが、ぜひ乗車前にボディの下や足回りを目視し、そしてボンネットをたたいて、猫が潜んでいないか確かめてほしい。
(できればボンネットを開けて確認してほしい)


辺りは薄暮に包まれてきた。そろそろ海岸を離れる時刻だ。
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私がエリアの入口に戻ると、顔見知りなのだろうか、シンゲンがひとりの男性と向き合っていた。
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帰り支度をしている私に気づいたシンゲンは、非難のこもった目つきで見つめてきた。


もちろん私はそんな筋違いなシンゲンの視線など馬耳東風と受けながし、自転車にまたがった。
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それに私の想いは別のところにあった。

そのとき私の脳裏をよぎっていたのは、長年暮らしたこのエリアから去っていったコジローの姿だ。

エリア生え抜きの海岸猫として、唯一残っていたコジローがいなくなったことに、やはり一抹の寂しさを感じていた。







「コジローお前は、自分のエリアにいるときは何故かいつも険しい表情をしていたな」
小次郎#31
「そして兄のマサムネとシシマル以外の海岸猫とはあまり親交を持たなかった」


小次郎#32
「ウマが合わない海岸猫がエサ場にいると、食事も独り離れた場所でとっていたのを憶えている」


「エリアにいるときも常に警戒を怠らず、物陰からほかの海岸猫に鋭い視線を送っているお前の姿をよく目にした」
小次郎#48
小次郎#50
小次郎#51
小次郎#52
「たいていの場合、その視線はシロベエか新参者に向けられていたのを私は知っている」


「そんなお前もよそのエリアにいるときは、穏やかな表情を見せていた」
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「私がお前の姿を求めて隣接するエリアに行って名を呼ぶと、一瞬驚いた顔を見せながらもすぐに側に寄って来てくれた」


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「そうしてブンブンに膨らませた尻尾を高々とあげて、私を歓迎してくれたんだ」


「直接は言わなかったけれど、シャイでクールなお前だから、この歓待には感激したよ」
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「いつも独りで寂しくないのかと訊こうとしたが、お前の顔を見ていたらすぐに愚問だと分かった」


「そのエリアにいるときのお前からは、警戒心や緊張感は微塵も感じられない」
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「それにいつもの伊達男ぶりもきれいに消え失せ、まるで無垢な幼子のような顔をしていた」


「そしてこのときには、こんな無邪気な仕草も披露してくれたんだ」
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「その姿を見て私は残念に思ったものだ。仔猫のお前に会いたかった、と」


「そう言えば、お前とはよく一緒に散歩をしたな」
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「風景を撮影するために私が海の方へ向かうと、お前はあとをついてきた」


「私につき合っても楽しいことなどないと知っているにもかかわらず、だ」
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「もしかしたら私と並んで歩く行為自体が、お前にとっては意味のあることだったのかもしれない」


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「そのお前が里子として引き取られたと知ったとき、私は心の底から驚いたし、にわかには信じられなかった。世の中にこんなことが起こるのか、と」

「私にとってはまさに『 青天の霹靂 』ともいうべき出来事だった」

小次郎#59
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「コジロー、これからは新しい親のもとで風雨や冬の寒さや夏の暑さに苦しまず、そして交通事故や虐待に遭うこともなく暮らせるんだ」

「お前たち猫はニンゲンと一緒にいることで幸せなれる。そしてニンゲンもまた、猫と生活をともにすることで幸せになれる」

「お前に会えないのは少し寂しいけれど、その何倍もの喜びを私は噛みしめているよ」

「お前のおかげで私の心はずいぶんと癒やされた。ここで語り尽くせないほどお前には感謝している」

「コジロー、幸せになるんだよ!母のシズクや兄弟のマサムネ、クロベエ、アイの分も、さらには野良猫のまま死んでいった多くの仲間の分まで!」


「コジロー、ありがとう!そして‥‥、サヨナラ」








コジロー(小次郎)♂。
2006年、シズクの子供としてクロベエ・アイとともに、このエリアで生を受けた生粋の野良猫。マサムネは2歳上の実兄にあたる。別称は『 浜の伊達男 』。

小次郎#27
小次郎#26b
小次郎#30b
状況:2015年初夏、篤志な里親さんに引き取られて今は家猫修行中の身である。



〈了〉



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