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Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

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★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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2010年1月23日
東京都荒川区東日暮里で行方不明
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2012年8月5日
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捨て猫エレジー (中編)

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チビ太郎は私の脚にぴたりと身体を寄せたまま身じろぎしない。

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気まぐれに訪ねてくる私にさえ、こうやって親愛の情をしめすチビ太郎の胸中を忖度すると、私は遣る瀬ない気持ちになる。


この感情はまた、自分が彼の状況を知りながら、なんら有効的な救済の手を差しのべられない無力感からも起因している。
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私はチビ太郎の身体を撫でながらつぶやくように語りかける。「チビ太郎ごめんな、何もしてやれなくて」


すると‥‥。
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チビ太郎は “涙” で潤んだ目で、私の顔を見あげた。


私に唯一できるのは、こうして食事を与えて一時的に空腹をやわらげてやることだけだ。
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チビ太郎にとって私という存在は、ニンゲン社会にたとえるなら、ときどき土産の菓子折りを持ってくる顔見知りのおじさんといったところかもしれない。


そんなニンゲンなどいなくてもチビ太郎は生きてゆける。自分でも承知しているが、結局私のやっていることは一時しのぎの弥縫策的な行為でしかないのだ。
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私はだから、雨の日も風の日も休まず、野良猫たちの世話をするボランティアの人たちに深い尊敬の念をいだいている。


チビ太郎の命脈が保たれているのも、そんな心優しい人の無償の厚意のおかげだ。
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あまり腹は減っていないのか、チビ太郎は猫缶を少し口にしただけで食べるのをやめてしまった。


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しばらくトレイの前に留まっていたチビ太郎だったが、やがて思いを定めたようにその場を離れていく。


日々を必死で生きている野良猫だから、ふつう食べ物の選り好みはしないものなのだが‥‥。
ダメ元を覚悟のうえで、持参していたべつのメーカーの猫缶を開けてみた。

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するとあに図らんや、新たなトレイに盛ったその猫缶をチビ太郎は貪るように食べはじめた。


猫缶を食した経験がないので、私に味のちがいは分からない。しかし形状といい色合いといい、両者に異同はないように見えるのだが、チビ太郎の舌はその差異を明確に感じとっているのだ。
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キャットフードを販売する各メーカーは、原材料を厳選し栄養素のバランスを考慮し、さらに猫の嗜好にあわせた製品を開発していると謳っているが、果たしてそれをすべての猫が好むとは限らない。


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トレイから顔をあげて舌舐めずりをするチビ太郎。今度こそは腹が充たされたのだろう。


と思ったら、チビ太郎は殆どを食べのこした最初のトレイに意味ありげな視線を投げかける。
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もしかしたら自分の口にはあわないから今は食べないけれど、あとで腹が減ったら食べてもいいな、と考えているのかもしれない。


多量の猫缶が残ったら、たいていの場合私はエサ場近くのカラスに奪取されにくいところに置いていく。
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猫はニンゲンのように決まった時間にまとまめて食事をせず、何回かにわけて少しずつ食べる習性をもっている。

これは約13万年前に中東の砂漠地帯に生息していた、猫のルーツである『 リビアヤマネコ 』の食性が伝搬したというのが定説だ。

そして時間を定めて食事を与えられた猫は、自由に食事をさせた猫に比べて協調性を欠き攻撃的になったという実験結果がある。

さらには一度に大量に食べると、尿のPH(ペーハー)やMg(マグネシウム)、H3PO4(リン酸)に大きな変化が起きる。

つまりは‥‥。


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猫本来の食性を鑑みないで、ニンゲンの食生活にあわせて食事の時間と回数を決めるのは大きな誤謬であり、待っているのは悪い結果でしかないのだ。

もし食性以外の猫の習性を矯正しようと試みても、同じくけっして望ましい帰結をもたらさないだろう。

そもそもある意味においては、文明に飼い馴らされて柔弱になったニンゲン(無論私をも含めて)とは対照的に、猫はいまだに野生の本能を頑なに保持している気高い生き物と言える。


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猫の食性に関していえば、日本人の多くが誤解をしている事例がもうひとつある。

それは、 “猫の好物は魚” という通説だ。

以前当ブログでも述べたように、猫はたしかに純然たる肉食動物だが、かといってことさら魚を好んで食べるわけではない。

また “猫は魚好き” と思い込んでいるのは日本人くらいで、欧米人はそのような観念を持っていない。

日本人がかかる勘違いをするにいたった起因は、昔から日本においては魚を食することが多く、猫にもその残りを与えていたことによる、と言われている。


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経験則にもとづく私見を述べさせてもらうと‥‥。

ニンゲンと猫が一緒に暮らす場合においては、ニンゲンの都合を猫に押しつけるのではなく、逆に猫の都合にニンゲンがあわせた方が良い関係をつづけられると思っている。

そのためには通常の観点ではなく、猫の観点から物事を見る必要がある。


チビ太郎がゆっくりとした歩度でエサ場から離れていく。
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猫は独りでいることを好むと知っていても、私はチビ太郎の後ろ姿につい寂寥感を覚えてしまう。


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チビ太郎は食後の毛繕いを入念におこなっている。
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猫の綺麗好きはつとに知られていて、たとえ病のせいで体のどこかに痛みがあっても、そのために気分が落ち込んでいても食後の毛繕いはけっして怠らない。


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先住猫たちをすべて追い出したこのエリアで跋扈していた2年前の威圧的な面影は、やはり病のせいで、今のチビ太郎には微塵も残っていない。


前回も述べたが、猫は時間の概念を持たないかわりに身体の衰えは自覚するだろうと私は思っている。


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チビ太郎自身は黙して語らないから彼の本当の苦衷を私は知る由もなく、ただ推測するしかないのだが‥‥。

頑強な体躯と膂力、そして豪胆な気質をもっていたチビ太郎だから、なかんずく体力の衰えがもっとも辛いのではないだろうか。


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そしてそうであるのなら、チビ太郎は体力の弱体化によって、これまで互角に対抗していた外敵から致命的な攻撃を受けることも覚悟しているのかもしれない。

もしも‥‥、私がチビ太郎とおなじ状況に置かれたとしたらどのように感じるだろう?


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克己心の弱い私のことだから、おそらく悪化する一方の眼病と相貌の激変に周章狼狽し、急激な身体の衰えとさまざまな苦痛に悲鳴をあげながら、日々を懊悩のうちに送るだろう。

そして自分をこんな目にあわせた相手を激しく憎悪し、さらには怨みをはらすために復讐を考えるかもしれない。その相手が信じていた “親” なら尚更だ。


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しかし一度ニンゲンと信頼関係を築いた猫は、余程のことがないかぎりそのニンゲンを裏切ったりはしない。

裏切るのはいつだってニンゲンの方だ。


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理由こそ違えど二度もニンゲンに見捨てられたチビ太郎にしても、自分の置かれた苦境を訴えることもせず、自分をおとしいれた者へ怨嗟の声をあげるわけでもない。

長靴おじさんが海岸を去った日を境として寄る辺ない野良猫の身になったチビ太郎は、ただ懸命に生きようとしているだけだ。


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あるいは長靴おじさんが戻ってきて、再び一緒に暮らせるようになるのをチビ太郎は信じているのだろうか。

だから病の苦しみにも堪え、衰弱の恐怖にも立ち向かえるのかもしれない。


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果たして、チビ太郎の望みがかなう日はやって来るのだろうか。


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〈つづく〉



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捨て猫エレジー (前編)

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かつて防砂林の片隅に一人のホームレスの男性がひっそりと暮らしていた。

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その男性がいつからこの場所で生活を始めたのか、私が知るべくもない。
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右のテントは簡易的なものだが、左の母屋は年季のはいったもので、ちょっとやそっとの風ではびくともしないほど頑丈に造られている。


ちなみに私はこの男性の実名を知らない。
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そこで便宜上、ブログ内では男性を『 長靴おじさん 』と称しているのだが、実際に長靴をはいた姿を目撃したのは1、2度だけだ。


さて、このテント小屋にはもうひとり “同居人” がいる。
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チビ太郎 』という名のオス猫で、この当時(2010年)は5歳だった。


捨てられていた仔猫のチビ太郎を発見した長靴おじさんは、そのままテント小屋に連れてきた。
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以来、長靴おじさんとチビ太郎はこのテント小屋で一緒に暮らしている。


“家” を持たない長靴おじさんと “親” に捨てられたチビ太郎、もしかしたらその境遇ゆえに相身互いの関係にあったのかもしれない。
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長靴おじさんが名を呼ぶとチビ太郎は素直に歩み寄っていく。


長靴おじさんは自分の過去についていっさい話さないし、私も敢えて質問しない。だから肉親や親類縁者がいるのかどうかさえ不明だ。
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いずれにしろ海岸に独りで暮らす長靴おじさんとってチビ太郎は、身内同然の存在であろうことは容易に想像できる。
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一方チビ太郎にとって長靴おじさんは、言うまでもなく命を救ってもらった恩人だ。


昔から “猫は情が薄い” と言われている。だがこの見解は自立心の強い猫の性格を皮相的に解釈しているにすぎない。
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猫と密接にかかわっている方なら知っていると思うし、自分の経験則から私も明言できるが、猫は人から受けた恩をそうそう簡単には忘れない動物だ。


だから猫は巷間言われているような、情の薄い動物ではけっしてない。
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私見を述べると、猫は犬と同程度の忠義心を持っているが、ただその表現方法が犬と異なっているだけなのだ。


チビ太郎も命の恩人である長靴おじさんを慕っている。その想いはかなり強く、愛情を独占したいがためにほかの猫を排斥するほどだ。
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あらためて思うのだが、信じていた “親” にゴミのように捨てられたチビ太郎だから、長靴おじさんの愛情をことさら渇望していたのだろう。


ところが‥‥。

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長靴おじさんとチビ太郎の生活は、ある日突然致命的な崩壊をむかえることになる。

2012年初秋、長靴おじさんは病を得て住み慣れた防砂林から出て入院してしまったのだ。

そしてチビ太郎は事情も分からず独り防砂林に残された。

そのときの様子は【残された猫】を、更にその後の様子は【海岸猫たちの朝】の後半を参照されたい。

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世話をする人もいたのでテント小屋にとどまっていたチビ太郎だったが、やがてほかのエリアへ頻繁に出張るようになる。

そうやって数ヵ月間二つのエリアを往来していたが、冬が目前に迫ったころにテント小屋は管理者によって完全に撤去され、チビ太郎は飼い主に加えてねぐらをも失ってしまう

今思えば、おそらくその出来事が直接的なきっかけとなったのだろう、チビ太郎は元のエリアを捨てて通っていたエリアに棲みついてしまった。

そしてこのエリアでも世話をする人の愛情を独り占めしたかったのか、チビ太郎は先住猫たちすべてを駆逐したという。

その話を知人から聞かされた私が、真偽のほどを確かめるためにチビ太郎を訪ねたときの状況は【東方の異変 (前編)】に詳しいので参照されたい。

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それから1年あまり経った2015年の夏、今度はチビ太郎の身体に異変が起こっていた。

名に反して巨躯を誇っていたチビ太郎だったが、そのころに見る影もなく痩せおとろえた姿で私の眼前に現れたのだ。

そのときのチビ太郎の状態は【痩躯の猫 (前編)】と【痩躯の猫 (後編)】を参照されたい。


* * *


そして2016年の春まだ浅い日の夕刻、重い身体をなだめすかし、沈んだ気持ちを鼓舞激励して、私は久方ぶりに海岸へ足を運んだ。
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言うまでもなく、前回会ったとき以来ずっと気懸かりだったチビ太郎に会うためだ。


「チビーっ!」

ゆっくりとした足取りでエリアへ入っていった私は、いつもそうするように見当をつけた方向へむかって名を呼んだ。

すると果たせるかな、防砂林の何処かから微かに猫の鳴き声が聞こえてきた。


そうしてじきに灌木のあいだから姿をあらわしたチビ太郎は、私のほうへまっすぐ歩み寄ってくる。
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地面をける脚の動きは存外に力強く、またその足付きも軽快に見える。


体も前回会ったときに比べて幾分肉が付いているようだ。
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ボランティアさんのケアの甲斐あって、チビ太郎の症状は快方へ向かっているのかもしれない。


しかし、チビ太郎が痩せこけていることに変わりはない。
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身体をさわると分かるのだが、いまだ背中に肉は付いておらず、背骨の一つひとつの骨がはっきりと確認できるからだ。


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それに眼のまわりの “ただれ” は前回より明らかに悪化している。


元の飼い主である長靴おじさんの手当で眼病の進行は止まっていたはずなのに、何故今になって再発したのだろう?
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更に注意深くチビ太郎の顔を観察すると、人の手によってティッシュなどで眼ヤニを拭きとった跡が見られた。


おそらくは、チビ太郎の世話をしているボランティアの婦人がぬぐったのだろう。

どうしてそれが分かったのかというと、以前に私がチビ太郎の眼をティッシュで拭いた際にも同じような跡が残ったからだ。


チビ太郎はおもむろに腰をあげて、再び私のほうへ歩を進めはじめた。
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そしてすぐ側で立ち止まると、その場に端座した。
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この日のチビ太郎は前回と打って変わってほとんど声を発しない。


考えてみれば、ほかの野良猫と同様に元来は寡黙な猫だったのだ、チビ太郎は。
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少なくとも長靴おじさんと一緒に暮らしていたころのチビ太郎はほとんど鳴かなかったと、私は記憶している。


私の記憶が正しければ、チビ太郎が饒舌になったのは長靴おじさんが病を得てテント小屋を去ったときからだ。
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その当時7歳だったチビ太郎も今年は11歳をむかえる。


品種や個体での差もあるし、実際のところは分からないのだが、現在もっとも人口に膾炙している説だと、猫の11歳はニンゲンの年齢に換算すると60歳くらいだと言われている。

また猫には時間の概念がないと言われているので、猫自身が自分の年齢を意識することはないだろうが、身体の衰えは野生の本能が強い猫にしてみれば、重大な問題として自覚していると思われる。

いわんや寄る辺ない野良猫の境遇で罹患したチビ太郎においてをやだ。

チビ太郎はだから、不安にかられて顔見知りのニンゲンに自分の心情を伝えようと饒舌になったのでは、と私は思っている。


私が後ろにさがって撮影していたら、チビ太郎はさきほどと同じように歩み寄ってきた。
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そうして私の足元までくると、何も言わずに私の脚に身体を押しつけてくる。
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やがてチビ太郎は私の脚へもたれかかるようにして座り込み、そのまま動かなくなった。



〈つづく〉



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