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wabi

Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

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思慕 (後編 1)




捨て猫の灰シロ猫はリンを執拗につけまわし、挙げ句のはてには逃げるリンを猛追する始末だ。

ただ、もしかしたら灰シロ猫はリンの姿に生き別れた母の面影を重ねているのかもしれない、と私には感じられた。

そしてその追走劇が収まったのを機に、私は海岸猫たちに食事を与えることにしたのだが‥‥。


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食べ盛りのサキと灰シロ猫はやはり食欲旺盛で、脇目もふらず一心不乱に猫缶をほお張っている。

とくに灰シロ猫の食べっぷりは凄まじく、猫缶が見る見るうちに呑みこまれていく。

まるでその身体の中に小さなブラックホールがあるかのように。


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一方リンはあくまでも鷹揚にゆっくりとしたペースで食べつづけている。


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私が用意したトレイはいたって軽い代物で、それがために灰シロ猫の鼻先に押されて徐々に前へ移動していく。


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灰シロ猫の食べる勢いは少しも衰えを見せず、猫缶をひたすら貪りつづける。


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そうこうしているうちに灰シロ猫は自分の分の猫缶を完食してしまった。

食べはじめてからここまで2分も経っていない。


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となりのリンはまだ3分の2ほど猫缶を残しているので、灰シロ猫がいかに速いペースで食べたのかがよく分かる。

そのリンのトレイをちらりと横目でうかがう灰シロ猫。それにつられるようにリンも顔をあげる。


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そしてリンは灰シロ猫に呼応するように、自分のトレイから離れて灰シロ猫のトレイに近づいていく。

「あっ、まただ」私は思わず声をあげた。


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野良となってからは常に家族と暮らしていたリンだから、たいていの場合相手は自分の子供だったが、彼女がこういう割に合わないトレードをする場面に私は幾度か遭遇している。

おそらくリンの母性本能がなせるわざなのだろうが、それでも今回ほどアンフェアな遣りとりを目撃した記憶はないと思う。


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僅かばかりのかけらが底にへばり付いているトレイを前に、リンは呆然と立ちつくしている。

しかし、たとえそれが不当な交換であっても、温順で寛容なリンが灰シロ猫から自分のトレイを取りかえすような行動に出ることはけっしてない。


私は持参していた予備の猫缶を開け、3つのトレイの中身が均等になるようにつぎ足した。


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ところが、新たな猫缶を盛ったトレイに近づいてきたのはサキだけだった。


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リンは私が猫缶を用意しているあいだにその場を立ち去り、少し離れた防砂林の一画に腰を下ろして、あたりにぬかりなく目を配っている。


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育ち盛り、食べ盛りの灰シロ猫もさすがに腹が満たされたのだろう、リンのあとを追うようにエサ場を離れていく。

灰シロ猫の足取りは迷いのないしっかりとしたもので、猫缶への未練など微塵も感じさせない。


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ニンゲンの中には食い意地が張った強欲な輩もたくさんいるが、猫にはそういう傾向はなく、実に恬淡としている。

だから今回の灰シロ猫のように、たとえ目の前に食べ物があっても必要以上に摂食することはない。


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というのも、そもそも猫は少しの量を何度かに分けて食べる食性を持っていて、いわゆる「一気食い」や「まとめ食い」はしない。

(だいたい過食が原因で身体を重く感じて機敏に動けなくなったら、家猫はともかく外敵の多い屋外で暮らす野良猫にとっては一大事である)

その猫の食性を無視して、ニンゲンと同じように時間を決めて食事を与えると、攻撃的になったり協調性をなくしたりすると言われている。


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更に食事の間隔をあけると一度に食べる量が増えてしまい、結果として尿pHの変動が大きくなり健康を損ねる原因にもなりえる。

このようにニンゲンの食生活をそのまま猫にまで押しつけるのは、彼らからすれば迷惑千万なことなのかもしれない。

ちなみに、8年前に海岸で保護した我が家の愛猫には、好きなときに好きなだけ食べられるようにキャットフードを食器に置きっぱなしにしているが、彼女は当初のスリムな体型を今も維持し、そしてこれまで病気ひとつせず健康状態もきわめて良好だ。


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ひとり黙々と猫缶を食べつづけるサキ。

やはり若いサキなどは、この時刻(夕方)になるとどうしても腹が減ってしまうのだろう。


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面識がなくたがいにその存在を知らない場合もあるが、たいていのエサ場には複数のボランティアの人が関わっている。

そしてこれは面識がない理由でもあるのだが、朝・昼・夕方以降というように、その人たちはそれぞれの事情によって海岸を訪れる時間帯が違う。

つまり海岸猫の多くは、日に2度は食事をもらっている。


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すると、先に述べた「少量を何回かに分けて食べる」という猫の食性とは合致しないことになる。

だったら置き餌をすればいいのでは、と考える方もいらっしゃるだろうが、事はそう簡単に運ばない。

なんとなれば防砂林の中にあるエサ場には、「置き餌」をしようと思ってもできない理由があるからだ。


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灰シロ猫は頭上を見あげながら甲高い鳴き声を発した。


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そしてつぎの瞬間、灰シロ猫はいきなりジャンプすると、近くにあった松の枝にしがみついた。

「ひょっとして、これは腹ごなしのためのいわゆる『食後の運動』」ってヤツか?」


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木登り巧者のリンが見せる華麗さや軽快さといったものは灰シロ猫には具わっていないが、幼いとはいえそこは男子、力にまかせた強引な登り方をする。


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「しかし、ホントにじっとしていられないんだな、この子は」私がこのエリアを訪れてからここまで、灰シロ猫は5分とひとところにじっとしていない。

灰シロ猫自身の意思とは無関係に、まるで英気や生命力が身体を勝手に動かしているような印象すら受ける。


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最後まで猫缶を食べていたサキも腹がいっぱいになったのか、悠然とした足どりでエサ場を去っていく。


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結局、つぎ足した猫缶をそっくり残した感じだ。けれど、とくだん驚くことではない。

なぜなら、はじめに与えた猫缶を海岸猫があっというまに平らげたので、ならばとお代わり出すと、まるで手のひらを返したように見向きもされないという経験を何度もしているからだ。


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おそらく今まで樹上から海岸猫たちが食事する光景を観察していたのだろう、サキがトレイから離れるとすぐにカラスが舞いおりてきた。

先述した「防砂林の中にあるエサ場では置き餌ができない」のは、このカラスの存在があるからだ。

彼らは何処に海岸猫のエサ場があるのか、また誰が食べ物を持ってくるのかをしっかりと記憶している。

そして隙あらばいつでも海岸猫の食事を奪取してやろうと、高所から給餌の様子をうかがっているのだ。



〈つづく〉



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


さて、今年も寒い季節が到来しました。

そこで‥‥。

昨年も取りあげた日産自動車が提唱している『#猫バンバン プロジェクト』を紹介します。


#猫バンバン プロジェクト



外で暮らす猫たちは寒い冬場に暖かさを求めて、停まっている車のエンジンルームや
足回りに潜りこむことがある。


それを知らずにエンジンを始動すると、猫が負傷したり、最悪の場合は死亡します。

実際に駐車中の車にひそんでいたふたりの海岸猫(ミイロ・シシマル)が
発進した車のタイヤに轢かれて死亡し、
ひとりの海岸猫(カポネ)が始動したエンジンで怪我をしている。


そんな事故を防ぐため、 “エンジンをかける前” にボンネットを叩いて猫たちの命を救うのが
『#猫バンバン プロジェクト』の趣意です。


『#猫バンバン プロジェクト』の詳細は下の画像をクリックしてください。
日産のページへジャンプします。







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思慕 (中編)




飼い主の手により防砂林に遺棄された灰シロ猫は寂しさのためか、エリア最年長のリンにまとわりつく。

しかしそんな灰シロ猫にリンはまったく取りあわず、一貫してつれない態度で接している。

リンの態度が我慢できなくなったのか、灰シロ猫はいきなり飛びかかるという少々荒っぽい手段に出た。

そして私の目の前でふたりの身体がもつれあう。


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急いで防砂ネットの反対側へまわりこんでみたら、憮然とした顔で防砂林から出てくるリンと鉢合わせするかっこうになった。

三角の眼をしたリンの迫力に気圧されて、私はおもわず後ずさりする。


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ややあって灰シロ猫も防砂林から出てきた。

さっきリンに飛びかかる前に見せた溢れんばかりの血気はあらかた消えている。


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しかし気持ちの切り替えにそれなりの時間を要するニンゲンに比べて、猫は気散じをいとも簡単にやってのける。

こうしてちょこちょこっと毛づくろいをするだけで、直前の出来事をきれいさっぱり忘れることができるのだ。


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灰シロ猫は前方を見つめ、迷いのないしっかりとした足どりで私の目の前を横切っていく。


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防砂ネットをあいだに挟んでいるが、リンと灰シロ猫の距離は2メートルほど。

灰シロ猫の心情としては、触れ合えないまでもできるだけリンのそばにいたいのだろう。


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リンが動くと、灰シロ猫はすぐにそのあとを追っていく。


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しかしリンはそんな灰シロ猫に見向きもしないで防砂林の中へと進んでいった。

リンの無言の圧力にひるんだのか、灰シロ猫はリンのあとを追うのをあきらめた。


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とはいっても、やはりリンのことが気になるらしく、灰シロ猫は防砂ネット越しに様子をうかがっている。


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猫の視力はニンゲンの10分の1程度であまり良くはなく、遠くのものをはっきり認識できない。

ただ動いているものを感知する能力は優れているし、暗視能力はニンゲンの6倍という高い性能を誇っている。


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猫の視力に関するこれらの能力は、暗闇でちょこちょこと動く小動物を捕獲するために備わったものだ。

明るい環境で、なおかつ目の細かいネット越しという条件で、灰シロ猫はその能力を存分に発揮することができるのか、私にはもちろん分からない。


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やがて灰シロ猫はネット越しにリンの様子をうかがうのをやめた。

老練なリンのことだから灰シロ猫に見られているのを察知して、自分の動きをさとられないように距離をとるか、物陰でじっとしているのかもしれない。


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いつの間にかサキがこちらがわの防砂林に移動してきていた。

灰シロ猫はリンを見失ったので、サキをつぎの標的にするつもりなのだろうか。


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腰を下ろそうとした灰シロ猫だったが、何故か途中でその動きをとめた。

そして灰シロ猫は、私の背後に意味ありげな視線を投げかける。


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そんな灰シロ猫の変化に気づいたのだが、私はあえて後ろを振りかえらずに灰シロ猫の動きを追うことに集中した。

こういった複数の猫がいる状況では、どの猫にレンズを向けるべきかしばしば迷う。

とどのつまりは自分の勘だけを頼りに被写体を決めるのだが、気まぐれな猫が相手なので決定的瞬間を撮りそこねることなど日常茶飯だ。


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果たして私の判断は吉と出るのか凶と出るのか‥‥、それはひとえにこの幼い海岸猫の行動にかかっている。

灰シロ猫は視軸を微動だにもさせず、身体をぎゅっと縮めた。

その様子はギアをローに入れ、最大トルクが発生する回転数までアクセルを噴かして、クラッチをつなぐタイミングを見計らっているドライバー・ライダーを連想させる。


記事の内容とはまったく関係のない余談だが‥‥。(ですからこの部分を飛ばしても差し支えありません)
私が最初に購入したバイクは中古のカワサキ・マッハⅢの初期型で、「曲がらない」「止まらない」と評されるくらい、ただ速く走ることだけに特化した、今考えるととんでもない代物だった。
排気量500cc、空冷2ストローク並列3気筒のエンジンは7,500rpmで60hpをたたき出し、発売当時は世界最速の200km/hを誇っていた。
最大トルク5.85kg-mは7,000rpmで発生し、とにかくピーキーなエンジンで4,000rpm以下はほとんど使いものにならなかった記憶がある。
ただし高回転を保っていれば凄まじい加速感を体験でき、煙幕と見まがう白い排気煙を吐きながら、3気筒エンジンが「シャーーーンッ」という独特の甲高い金属音を発するころには、ライダーを異次元の速度へといざなってくれる。
その特性や事故率の高さから「じゃじゃ馬」「◯チガイマッハ」「後家づくり」などと称されたマッハⅢだったが、上京する際に手放すまで、私にとってはかけがえのない相棒でありつづけた。
比喩としてエンジンについて述べているうちに、ふとそんなことを思い出した。
閑話休題。



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数秒後、灰シロ猫は全身にためこんだ力を一気に噴き出して “発進” した。


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私の判断は間違っていなかったが、いかんせん被写体との距離を読み違えてしまい、素早い動きについていけず、横切るリンがフレームに入りきらなかった。

カメラに不慣れな私にとってはこういう初歩的なミスもまた、日常茶飯なのだ。


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リンが一目散に逃げていく。そしてそのリンを灰シロ猫が懸命に追う。

こうしてリンと灰シロ猫の追走劇が再びはじまった。


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早くもスタミナが切れたのか、リンが速度をゆるめる。

そのせいでリンと灰シロ猫の間合いは一気に縮まった。


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と、ここでリンは不意に足をとめて後ろ脚で立ち上がった。

いっぽうの灰シロ猫は、さながらトップギアでアクセルを全開にした伝説のバイク『マッハⅢ』のように「曲がらない」「止まらない」状態におちいったのか、そのままの勢いでリンを追い抜いてしまう。


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リンは防砂ネットに飛びつくと、18本の鋭い爪を巧みに使ってするすると登っていく。

小柄な身体をもち、なおかつ身軽さが持ち前のリンだからこそできる芸当だ。

それにしても‥‥、と私は首を傾げた。


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リンはどうして灰シロ猫の近くに戻ってきたのだろう?

あのまま離れたところへ移動していれば、こんな追走劇を演じなくてすんだはずなのに。

このエリアにはリンのお気に入りの場所がいくつかあって、そこでくつろいでいる姿をよく目にしていたから、私にはリンの行動が不可解に思えてならない。


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3~4メートルほどの距離で対峙するリンと灰シロ猫。

灰シロ猫は防砂ネットを背にして身構え、リンは道路のまん中で自若としている。

この光景を見るかぎりはリンの方が優位に立っているし、実際の年齢を考えてもリンが上の立場にいるはず。


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ただ雌であるリンと雄である灰シロ猫とでは年齢の差ほどに体力や膂力に差があるのかと問われたら、私は「分からない」と答えるしかない。


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リンの行動はやはり私には理解できなかった。

先に述べたように、追われて逃げるくらいなら灰シロ猫の目の届かないところにいればいいと思うのだが、何故あえて戻ってきたのだろう?


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それに灰シロ猫が近づいてきても、こうして睨みを利かせれば済むことなのに、とも思うのだが。

とはいえ、融通無碍を旨とする猫の行動からその心理を探ろうとする試み自体が無謀で不遜なことなのかもしれない。

「何を考えているのか容易に分からない」というのも、猫がもつ魅力のひとつなのだから。


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灰シロ猫はリンの鋭い一睨にあって、今度こそリンに近寄るのをあきらめたようだ。

さっきまでとは違い、とぼとぼとしたいかにも元気のない歩き方からもその落胆ぶりがうかがえる。


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防砂ネットを通してぼんやりとサキの姿が見える。

しかし灰シロ猫はそのサキの姿を捉えられないのか、明後日の方を向いている。


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私は防砂ネットの反対側にまわってサキの様子をうかがった。

そのときだった‥‥。


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私の横を一陣の風のように、リンと灰シロ猫が走り抜けていったのは。

《いやはや、追走劇に三幕目があるとは‥‥》」私は半ば呆れて、その場でふたりを見送った。

「ひょっとしたらリン自身も灰シロ猫に追われることを愉しんでいるのかもしれないな」などと、性懲りもなくリンの心情を忖度しながら。


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しばらくして道路に出てみると、ひとりで引き返してくる灰シロ猫の姿があった。


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どうやらリンは灰シロ猫の追走を振り切ったようだ。

このエリアに精通しているリン、おそらく彼女なら状況に応じた逃走経路をいくつか知っているだろうから、今度こそは防砂林の奥にでも身を隠したのかもしれない。


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いきなり走り出した灰シロ猫。しかし灰シロ猫の前方に追いかける対象物は何もない。


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見るからに活力と鋭気があり余っている感じの灰シロ猫にとっては、防砂林の一画でただじっとしているなど苦痛以外のなにものでもないのだろう。


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サキ以外のふたりは “適度な” 運動をしたので、私はこのタイミングで食事を与えることにした。


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血気盛んな灰シロ猫も、さすがに猫缶をほお張るときは他のことなど目に入らないようだ。


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まだ成長に伸び代があるサキと育ち盛りの灰シロ猫は、咀嚼するのもどかしげに猫缶をつぎつぎと腹に収めていく。

それとは対象的に、リンは猫缶を一口一口味わいながら食べている。


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実の母娘であるリンとサキに挟まれて食事する灰シロ猫、この “席順” は私が企図したわけではなく、海岸猫たち自身が選択した。

このことだけでエリアの先住者であるリンとサキの母娘が新参者の灰シロ猫をこころよく受け入れていると判断するのは早計かもしれない。

けれど目の前の光景は、灰シロ猫の行く末に淡い陽の光が射しているような印象を私に与えてくれる。



〈つづく〉



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思慕 (前編)




前回の話で紹介したシャムMixや黒猫、茶トラがどういった経緯で海岸へやってきたのか、実際のところは私にも分からない。

ただ幼いアメショー柄のキジ白の子の場合は、自らの足で海岸へ来ることなどありえないので、飼い主の手によって遺棄されたと断言できる。

動物愛護法の罰則が強化されても、この手の “犯罪” はいっこうになくならない。

悲しくてやりきれないことだけれど‥‥。


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そしてここにも、ニンゲンの手によりゴミのように捨てられた子がいる。


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以前『ニューカマー』で紹介した灰シロ猫だ。

あの時点では、この幼い猫がどういういきさつでこのエリアに住みつくようになったのか分からなかった。


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その後、複数の関係者に訊いたところ、この灰シロ猫は2015年の11月にいきなりこのエリアに現れたと言う。

とすれば、月齢にして2~3ヵ月のころだ。


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生後2~3ヵ月の仔猫が自ら交通量の多い国道を渡って海岸へ来ることなど常識では考えられない。


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つまりは、この灰シロの子も酷薄なニンゲンによってここに捨てられたのだ。


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おそらくそのニンゲンは、飼い猫が産んでしまったけれど何らかの理由で飼えなくなったこの子の処置に困り、エサ場がある海岸なら生きていけるだろうと安易に考えたのだろう。

だが‥‥。


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海岸の実情を知っている者なら誰しもが、ここは猫の楽園などではけっしてなく、並外れた生命力とよほどの強運を持ちあわていなければ生き抜いていけないトコロだと確言するはずだ。

大半の海岸猫は2年を経ずに海岸から姿を消してしまい、その後の彼・彼女らの消息は杳としてつかめない。


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だからこの灰シロ猫がこのまま海岸で2歳をむかえられるかどうかは、ひとえにこの子自身の力と運にかかっているのだ。

世話をするボランティアの人たちは食事は与えてくれるけれど、海岸猫を直接守ってはくれないのだから。


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灌木の茂みの中から姿を現したのは、このエリアの最年長猫であるリンだ。

(先ほどちらりと姿を見せたのはリンの娘のサキだが、いつの間にか姿を消した)


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リンの後ろ姿を見つめながら、灰シロの猫は尻尾を高くあげて身構えている。

その表情は何か良からぬことを企んでいるように見える。


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そんな灰シロ猫を一顧だにしないで、リンは足早に私の脇をすり抜けていった。


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灰シロ猫もリンのあとを追って、私の目の前を確固とした足どりで横切っていく。


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このふたりはもちろん血縁関係にはないが、灰シロ猫が一方的にリンを慕っているフシがある。


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今も、リンが見ているのをじゅうぶん意識して、いかにもかまってほしそうに身体を横たえている。

まあそれも無理からぬことだと私は思った。


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なんとなれば母に甘え、兄弟と遊びたい時期に、その家族と無理やり引き離されたのだから。


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しかし、そんな灰シロ猫を見つめるリンの表情は思いのほか険しい。

前回このエリアを訪れたときも、リンは灰シロ猫にまったくといっていいほど関心を示さなかった。

これまで常に身内と暮らしていたリンにとっては、幼いとはいえやはりよそ者の猫は疎ましい存在なのだろうか。


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そのとき、我々のあいだを散歩中の犬が駆け抜けていった。

「ごめんなさい」と飼い主の女性が一声残して。


リンと灰シロ猫は犬の接近を察知すると、私の目の前からあっという間に姿を消してしまった。


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灰シロ猫はすぐそばの灌木の茂みに身をひそめていた。

まれにみる大胆不敵な灰シロ猫も、さすがに犬は苦手なようだ。


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今までも散歩中の犬が通りかかるたびに、さっきのように素早く身を隠していたのだろう。

不謹慎な飼い主は、大型犬であってもノーリードで散歩させるから用心するに越したことはない。


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保護されたサンマのように犬に襲われて大怪我をする場合だってある。

私自身も何度か目撃したし、話にも聞いているが、飼い主の中には海岸猫に犬をけしかける悪質な輩もいる。


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野良猫にとって海岸は、野生動物などの通常の外敵以外にも警戒しなければならない敵がいる場所なのだ。

家猫の平均睡眠時間が14時間なのに比べて、野良猫のそれは8時間ほどだというのもうなずける。

こんな環境にあってはうかうか寝てなどいられないだろう。


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避難していた灌木から姿を現したリンを出迎えるように、灰シロ猫は近づいていく。

そんな灰シロ猫にリンはどんな対応をするのだろう。私としては何らかのリアクションがあることを期待してファインダー越しに注視した。

ところが‥‥。


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「ジャマだからどきなさい!」とばかりに一睨して、リンは灰シロ猫を退けてしまった。

高圧的なリンの態度にあって、幼い灰シロ猫はひるんでしまう。


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「やれやれ‥‥」リンのにべもない対応に私は思わず苦笑いをもらした。


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けれど私の見るところでは、リンにつれなくされたことで灰シロ猫がめげている様子はない。


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まだ何かを目論んでいる雰囲気すら感じられる。


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ふと前方を見やると、灌木のあいだからサキが顔をのぞかせていた。


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何やら物言いたげな表情でこちらを様子をうかがっている。


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きっとリンの側にいることが嬉しくて仕方ないのだろう、灰シロ猫は跳ねるように走りまわる。


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だがリンはそんな灰シロ猫をちらりと見ただけで、取り合おうともせず毛づくろいを始めた。


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灰シロ猫はリンを見据えたまま姿勢を低くして身構え、尻を小刻みにふるわせている。

《おいおい、そんなことして大丈夫なのか?》これから起こるであろうことを予期して、私は胸のうちに一抹の不安を覚えた。


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だがそんな私の心配をよそに、灰シロ猫はリンを目がけて猛ダッシュした。


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灰シロ猫の突進を察知したリンは寸前で身をひるがして回避する。

が、灰シロ猫は委細かまわず再びリンに躍りかかった。


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なおも執拗にリンのあとを追う灰シロ猫。


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防砂ネットが邪魔をしてどういう状態かよく分からないが、ふたりの身体がもつれあう。

ただどちらも鳴き声は発していない。

生まれてからの3年間をホームレスの飼い猫として暮らし、その飼い主が海岸を去ってから今までの3年間を野良猫として暮らしてきたリン。

基本的には温順な性格だが、ぶしつけなマネをした我が子に猫パンチを放つ場面を何度か目撃している。

そんなリンのことだから、じゃれついたとはいえ、いきなり飛びかかってきた灰シロ猫に何らかのお仕置きをする可能性はじゅうぶんに考えられた。



〈つづく〉



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