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wabi

Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

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★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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以前、高所作業に従事している人と話す機会があり、とても興味深いことをおしえられた。

そのときその人は、とあるコーヒーメーカーの倉庫を建設している現場で、屋上からつり下げられたゴンドラにのって外壁に金属パネルを貼る仕事をうけおっていた。

建設中のその倉庫は高さが60メートルもあり、さらに山の中腹に建っているので風が吹いてゴンドラがよくゆれると、その人は言う。

そこで私は素朴な質問をしてみた。「そんな高いところで作業していて怖くないですか?」と。

すると、彼の口からは私がまったく予想もしていなかった答えがかえってきた。


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彼はまずこう言った。「この仕事をながくやっていると、ゴンドラの高さが60メートルでも恐怖はほとんど感じなくなります」

そしてつぎに、我々がもっとも恐怖心をおぼえるのは、ゴンドラが17、8メートルの高さにあるときなんです、と言った。

「17、8メートル‥‥、それはまたどうして?」私は疑問をすなおに彼へぶつけてみた。


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そのあと彼が語ってくれたはなしの概要を以下に記す。


15メートル以下から転落したばあい、大怪我をしても命がたすかる可能性があるからあまり恐怖は感じない。

いっぽうゴンドラの高さが20メートル以上なら、それがいくら高くなっても墜落したら即死するという事実は同じなのであきらめがつく。

それで、ある程度の高さ以上になると腹がすわって、かえって恐怖はなくなる。

でも15~20メートルの高さから落ちたばあいは、即死しないで苦しみながら死んでいくかもしれない、と思ってしまう。

“だから地面から17、8メートルの高さで作業するときがいちばん怖い”。


彼のはなしを聞いて目からウロコが落ちる思いだったが、ただ20メートル以上ならいくら高くなっても恐怖を感じないということがどうしても理解できなかった。

日常的に不安定な高所で作業をしている人とそんな状況とは無縁でいる私などとでは、やはり高さにたいする感覚がちがっているんだな、と思ったのをおぼえている。

ところで‥‥。


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ニンゲンと同様に、高いところがきらいな “高所恐怖症の猫” はいるのだろうか?

ひょとしたらなかにはそういう猫がいるかもしれないけれど、いたとしてもおそらく少数派で、大多数の猫は高いところを好む、 “高所嗜好症” とでもいうべき性質をもっていると思われる。

そうはいっても高所から降りられなくなる猫がいるからには、彼らにも恐怖を感じる高さがある。


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たとえ木にのぼるのが得意なリンにしても、高さにたいする恐怖をもっているはずだ。

それが5メートルなのか10メートルなのか、はたまた20メートルなのかは分からないけれど。


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あたりをひとしきり眺めていたリンだが、先に進めないことを悟ったのか、ゆっくりと身体を反転させていく。

それにしても、彼女は今の状況をどうやって切りぬけるつもりなのだろう。

この “キャットウォーク” から降りる手立てはあるのだろうか‥‥?


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そんな私の思いをよそに、リンは迷いのないしっかりとした足どりで鉄パイプを歩いていく。


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リンはふいに立ちどまると、目の前の松の枝を仔細に見つめはじめる。

「何か気になるものでも発見したのかな」私はただ漠然とそう思っていた。

ところが、この直後にリンがとった行動は意外なものだった。









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「あ‥‥」私は思わず声を発した。

フェンスから降りるのにこんな方法があったのかと、私は虚をつかれた思いだった。


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眼前の事象を皮相的にただ漫然と眺めていた私には、こういう発想がまったく浮かんでこなかった。

さながら、不可能だと思いこんでためすことすらしないでいたら、目のまえでいとも簡単に卵をテーブルに立てられたような心持ちがする。


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野生の本能をいまだに堅持している猫は、身体と同様に頭もしなやかだということかもしれない。

少なくとも “頑固、堅物、石部金吉” などと、しばしば揶揄される私などよりは。


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ズームを広角側にすると、リンを見あげているテルの姿がファインダーに入った。

それまでリンにばかりレンズを向けていて気づかなかったが、テルも私と同じようにフェンスにのぼったリンを追って移動していたのかもしれない。


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地面にたいして70~80度もの角度がある松の木を、リンは頭を下にして降りてくる。

こんな離れわざのようなマネが可能なのは、『回外』という手のひらが上を向くように前腕を回転する動作を猫が獲得しているからだ。

この回外を難なくやってのけるのは霊長類以外だとネコ科の動物くらいで、だから彼らは幹や枝を両腕で抱えこむようにして高い木にものぼれる。


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エサ場につく直前にリンがおこなった、この不思議な行為の前腕のかたちを見れば理解しやすい。

ちなみに猫は普段の生活において前足の親指をつかわないが、木などにのぼるときはほかの4本の指を補助する役目をになう。

いっぽう、後ろ足の親指は木のぼりのさいにも不要なので退化消失している。


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もしかしたら‥‥。

防砂フェンスにのぼるパフォーマンスを見せるため、その準備運動としてリンはこの不可解な行動をとったのではないだろうか。

まあ、いささか穿った見解だが、猫は用心深い動物だからありえなくはない。


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リンが地面まで1メートルほどのところにたっしたときだった。

それまで身を低くかまえてリンを眼で追っていたテルがいきなり駆けだした


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そして着地したリンのそばまでかけ寄ってきた。

まるで「すごいすごい、あんな高いところへのぼるなんて、やっぱりボクが尊敬するリンおばさんだ」とでも言わんばかりに。


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ふたりのあいだで無言のうちにどんなやり取りがあったのか不明だが、リンが脱兎のごとく逃げ去ると、テルもすぐにあとを追って、ふたりともネットのすきまから外へでてしまった。

(予期しない動きだったのでシャッターチャンスを逸し、リンが柱の陰に隠れている)


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ところが何を思ったのか、テルはリンのあとを追わずにとなりの防砂林へ飛びこんでいく。


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リンはというと、後ろもふり返らずにそのままレンガ道を駆けていった。

彼らのようにネットのすきまから抜けられない私はフェンスの端までいき、ネットを回りこんだ。


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灌木の茂みの前で、うずくまっているリンをまず発見した。

ただ、あたりを見まわしてもテルの姿はない。


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やがてリンはおもむろに身体を起こすと、ゆっくりとした足はこびで道路へでていく。

そして私がリンのあとから付いていこうとしたときだった。


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突然、前方の防砂林からテルが走りでてきた。


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テルはスピードを緩めずに、そのままリンのわきをすり抜けていった。


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それをきっかけに、前日とは立場をいれかえたリンとテルの追走劇がはじまった。

テルのテンションが異常に高いのは、リンのパフォーマンスから受けた興奮が冷めやらずにいるからかもしれない。



〈つづく〉



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#猫バンバン プロジェクト

日産自動車が提唱している『#猫バンバン プロジェクト』を紹介します。




外で暮らす猫たちは寒い冬場に暖かさを求めて、停まっている車のエンジンルームや
足回りに潜りこむことがある。


それを知らずにエンジンを始動すると、猫が負傷したり、最悪の場合は死亡します。

実際に駐車中の車にひそんでいたふたりの海岸猫(ミイロ・シシマル)が
発進した車のタイヤに轢かれて死亡し、
ひとりの海岸猫(カポネ)が始動したエンジンで怪我をしている。


そんな事故を防ぐため、 “エンジンをかける前” にボンネットを叩いて猫たちの命を救うのが
『#猫バンバン プロジェクト』の趣意です。


『#猫バンバン プロジェクト』の詳細は下の画像をクリックしてください。
日産のページへジャンプします。







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パフォーマンス (中編)




昼間に気温の低い海面から気温の高い陸地にむかって吹きつける風を『海風』という。

遮るもののない海面を渡ってくる海風は、その威力を減ずることなく海岸に到達する。

それゆえ海風の風力は想像以上に強く、ときとして風上にむかって歩けないほどの風速になる。

さらに海風は砂浜の砂を舞いあげては、『飛砂(ひさ)』として内陸へ飛散させてしまう。

その飛砂によって農地や家屋が埋没する被害をふせぐために、『防砂林』や『防砂ネット』が海岸線に沿ってもうけられている。※〔1〕


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強い海風にあおられて支柱が歪んだりかしいだりしないための補強なのか、それともべつの目的のためなのか私には分からないが、フェンスの胴縁と平行に一本の鉄パイプが渡してある。

ネットをよじ登ってきたリンは、その鉄パイプに器用にのりうつった。


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「なるほど、これはキャットウォークだ」私はつぶやいた。

『キャットウォーク』をネットで調べると、「高所にあるネコの通り道のことで、自然にできたもののほか、人為的に作られたものも含む。転じて、高所用の通路や足場の代名詞となった」とある。


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無論このフェンスを設置した施工者にそんな意図はなく偶然の産物だろうが、高さといい幅といい海岸猫にとってはかっこうのキャットウォークだ。


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私も過去にキャットウォークなるものを利用した経験がある。

屋内に設けられたそれは下のフロアーから5~6メートルの高さがあり、幅は40センチほど、そして床面が粗いメッシュという剣呑な代物だったが、華奢ながらも墜落防止の手すりが取りつけてあった。


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だがリンが立っているのは幅10センチほどの丸い鉄パイプで、墜落をふせぐものは何もない。

普通のニンゲンなら歩くどころか、立ちつづけることさえ不可能だろう。


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この事実ひとつをとってみても、猫の平衡感覚と運動能力がいかに優れているかが分かる。

まあ、ニンゲンにも猫のような肉球があれば数メートルくらいは歩ける‥‥、かもしれない。


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リンは立ちどまるとちらりと地面を見おろした。


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そういえば、さっき方向転換する直前にも同じ素振りを見せたが‥‥。「まさか、登ったものの降りられないってことはないよな、リン?」

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身軽なリンも垂直に立ったネットをつたって下へ降りることはできないのか。


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以前にも述べたが、猫は高いところへ登るのが得意でも降りるのは苦手なのだ。


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こんな場所、こういう状況でグルーミングとは‥‥、余裕の表れなのか、それとも昂ぶった気持ちを抑えるためにおこなっているのか、残念ながら私にはリンの表情が読みとれない。


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「リン、大丈夫なのか、お前はそこから降りられるのか?」私は少々心配になってきた。


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それまで平坦なところを歩いているときと同じ姿勢だったリンが急に身体を低くかまえ、慎重に足を運びはじめた。


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リンが差しかかったのはフェンスの角で、鉄パイプも緩やかなカーブを描いている。

よく見ると、そのパイプと直角に曲がったフェンスとのあいだに隙間がある。


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その隙間は小柄なリンでも通り抜けるほどの広さがあり、足をすべらすと転落してしまうだろう。

リンはその危険性を察知して注意深く行動しているのだ。


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さらにフェンスの支柱が傾かないために設置された『控え柱』が進行のさまたげになっている。

リンは控え柱に身体を密着させながら、ゆっくりと方向転換していく。


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鉄パイプとネットの間に生じた隙間、覆いかぶさるように張りだした控え柱、それらの障害を持ち前のしなやかな身体と抜群のバランス感覚で難なくきりぬけるリン。


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こういう状況でも猫の動きはじつに優雅で華麗で、気品すら感じさせてくれる。


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ただ高所にいる緊張感からか、リンの眼つきはいつもより真剣で、瞳孔も若干ひらいているようだ。


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リンが歩いている鉄パイプは、私の目測だと地面から3メートルほどの高さにある。

たとえこの高さから落下したとしても、生来の優れた平衡感覚と反射神経をもつ猫なら怪我をしないで着地できるはずだ。

それに浜辺の砂ほど柔らかくないが、防砂林の地面が砂地という条件も味方するだろう。


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とはいっても現実世界には予期しない出来事、いわゆる “万が一” という現象がときおり起こり、「猿も木から落ちる」とか「河童の川流れ」といった諺もそのことを示唆し、慢心をいましめている。

つまり、リンがフェンスから降りられなくなったり、飛び降りたさいに怪我をする可能性がゼロではない、というわけだ。


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東京に住んでいたときに飼っていた愛猫が、隣家の庇から降りられなくなったのをハシゴをつかって救ったことがある。

だがここにはハシゴに代わるものなど見あたらず、そもそもあれから20年余の年月がたった今、足がかりがほとんどないフェンスをよじ登る体力がはたして私にあるのかどうか‥‥、はなはだ心許ない。

ちなみに私は『高所恐怖症』ではないが、しかし高いところが好きかと問われれば、「できることなら避けたい」と答えるだろう。


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やがて鉄パイプが支柱と平行に地面へむかっている場所までくると、リンはおもむろに腰を下ろして前方を凝視し始めた。

“キャットウォーク” はそこで終わっていた。


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表記すべきものもない虚空を見つめつづけるリンの表情は、心なしか張りつめているように感じられる。

そのリンの顔を見ているうちに、私のなかにあった危惧の念が徐々に大きくなってきた。

稀にみる身体能力をもったリンにしても、垂直に立っているフェンスからは降りることができないのかもしれないと‥‥。

いずれにしろリンがこの状況をどう打開するのか、私は最後まで見届ける決心をした。



〈つづく〉



脚注
※〔1〕防砂林は砂防林、防砂ネットは防風ネットと呼ばれることもある。
以上は同義語ではなく、厳密には別物だが当ブログでは慣例に倣った。



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