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Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

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★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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青天の霹靂 (後編 1)

シシマルエリア、夕刻。
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駐車場に腹ばってから一度も後ろを振り返らないシンゲンだが、シロベエが背後から凝視していることに気づいていないのだろうか。
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いや、おそらく気配くらいは察知しているだろう。シンゲンの耳の向きを見れば、猫の特性である優れた聴力を後方へ集中しているのが分かる。


やがてシンゲンはおもむろに起き上がると、耳を後ろに向けたままゆっくりとした足取りで歩きだした。
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てっきり自分のテリトリーへ戻るのかと思ったのだが、シンゲンは2、3メートル進んだところで再び地面に身体を横たえた。


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ややあってシンゲンは初めて後ろを振り返る。


どうしてシンゲンはシロベエから距離を置いてから振り返ったのか。

私は何度も経験しているが、これは猫が持つ不思議な習性のひとつだ

たとえば人馴れしていない猫にニンゲンが近づいた場合、それを察知した猫はすぐに逃げ出すが、なぜかそのまま走り去らずに途中で立ち止ると、振り返って相手の挙動を改めて観察する。

そしてもしニンゲンがわずかでもその間合いを詰めようとしたら、今度は一目散に遁走してしまう。
(一定の距離を保ちながら、逃げる立ち止まるという行為をくりかえす猫もいる)

この行動から推すと、ニンゲンも持っている『パーソナルスペース』が、猫の場合はより画然としていると考えられる。


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さてパーソナルスペースとは如何なるものか‥‥、知っている人も多いと思うが、念のため概要を記しておく。


パーソナルスペースとは他人に近づかれると不快に感じる空間のことで、パーソナルエリアとも言う。

一般的に親近感をいだく相手に対してはパーソナルスペースは狭く、逆に敵視している相手に対しては広い。

1966年、アメリカの文化人類学者エドワード・ホールは、パーソナルスペースを4つのゾーンに大別し、それらをさらに近接相と遠方相の2つに分類した。

密接距離 ごく親しい人に許される空間。
・近接相(0~15cm)抱きしめられる距離。
・遠方相(15~45cm)頭や腰、脚が簡単に触れあわないが、手で相手に触れるくらいの距離。


個体距離 相手の表情が読みとれる空間。
・近接相(45~75cm)相手を捕まえられる距離。
・遠方相(75~120cm)両方が手を伸ばせば指先が触れあうことができる距離。


社会距離 相手に手は届きづらいが、容易に会話ができる空間。
・近接相(1.2~2m)知らない人同士が会話をしたり、商談をする場合に用いられる距離。
・遠方相(2~3.5m)公式な商談でもちいられる距離。


公共距離 複数の相手が見渡せる空間。
・近接相(3.5~7m)2者の関係が個人的なものではなく、講演者と聴衆というような場合の距離。
・遠方相(7m以上)一般人が社会的な要職にある人物と面会するような場合におかれる距離。

※〔1〕


上記は相手によるパーソナルスペースの分類だが、個人差や男女差、また文化によっても違うと言われている。

ちなみに我々日本人のパーソナルスペースは、欧米や他のアジア諸国の人に比べてかなり広い。


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猫はなわばり意識の強い動物なので、先述したようにニンゲンのパーソナルスペースより明確かつシビアに線引きされているはずだ。

そして野良猫の場合は自分の命にかかわることでもあるから、さらに厳格に意識されているのは想像に難くない。


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この家のご主人の厚意により、海岸猫たちのために飲料水が常時バケツに汲み置かれている。


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その水を飲むシロベエの耳の形を見てもらえば分かると思うが、こういうときもけっして警戒を緩めない。
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さっそく高性能な耳が後方の不審な物音をキャッチしたようだ。


先ほどのシンゲンもそうだったが、このように猫の寝かせた耳を一般的には『イカ耳』と言う。
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しかし私はその呼称がピンと来ず、形がステルス戦闘機の翼に似ていることから以前より『ステルス耳』と呼んでいる。


ネットで検索したところ、少数派ながら私と同じ考えからステルス耳と呼ぶ人がいることを知り、内心ひそかにほくそ笑んだものだ。
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まあこの際、耳の形の呼び方などという瑣末なことは閑話休題として、カラスが感知するほどのシロベエとシンゲンの張りつめた睨み合いに再び注目しよう。


ふたりの隔たりはおおよそ10メートル。この距離が互いの持つパーソナルスペースのどの範疇にあたるのか、私には知る由もない。
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ここでシンゲンが身体を反転させ、シロベエと向かい合った。後ろ向きの態勢では、やはり不利だと感じたのだろう。


次に動いたのはシロベエだった。
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不自由な後ろ脚を引きずりながら、シロベエはゆっくりとした歩度でじゃり道を横断していく。


あくまでも素人の私の見立てだが、シロベエは股関節が脱臼していると思われる。
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脱臼はたいてい外部からの強い衝撃で起こり、猫の場合は転倒、落下、衝突、交通事故などが原因となることが多い。ただし野良猫の場合は故意による虐待の可能性もありえる。


シロベエの移動によって、ふたりの隔たりは6、7メートルにまで縮まった。
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シロベエが移動した意図は分からないが、先刻までの険しい表情はいくぶん和らいでいるようだ。


と思ったのも束の間、シロベエが不意に身体を起こした。
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「さあどうするシンゲン、その距離、その態勢で逃げきれる自信はあるのか?」


「シロベエは後ろ脚を脱臼しているけれど、走ることに関してはなんの支障もないんだぞ」
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「そのことはお前自身も体験して知っているはずだ」


ところがシロベエは前進も後退もせず再びその場に腹ばいになった。
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そうしてシンゲンとシロベエの無言の睨み合いは続行された。


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緊張感に耐えられなくなったのか、シンゲンは哀れげな鳴き声をあげながら、足早に私の足許へ歩み寄ってくる。
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私はシンゲンのその声を聞きながら思った。この期に及んで逃げだすなら、もっと早くシロベエの目の届かない場所へ行けばよかったものを、と。


「シンゲン、悪いけど私は諍いの仲裁をするつもりはないんだ。シロベエと係わりたくないなら自分のなわばりに戻ればいい」
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そのとき、私の脳裏にある情景が鮮明に浮かび上がってきた。


そう言えば、シンゲンが私に心を開いたのも “あの日” だった。

2014年秋、その頃のコジローとシンゲンは、義兄弟のような間柄になっていた。
まるでTV ドラマ『傷だらけの天使』の『修』と『亨』のような。
※〔2〕

シンゲン「待ってくれよ!兄貴イーーッ!」
小次郎#01
小次郎#02
シンゲン「俺をおいてひとりでどこかに行こうなんて、兄貴冷たいヨ」


コジロー「しつこいンだよ、おめエは!金魚のフンみたいに俺のあとをついてくンじゃねエッ!」

ぺシィィッ!!
小次郎#04
小次郎#13d
シンゲン「ひ、ひどいヨ兄貴、いきなりブツなんて‥‥‥」


シンゲン「イイよわかったよ、兄貴が相手にしてくンないなら、カメラのおっさんと仲良くするから」
小次郎#05
コジロー「!?‥‥‥」


シンゲン「ネエネエ、おっさん、兄貴なンか放っといて俺と遊ぼうよォ!」

小次郎#07
小次郎#08
小次郎#09
というような遣り取りをふたりが交わしたのかどうかは分からないが、シンゲンは唐突に私の脚に身体をすり寄せてきた。


何はともあれ、シンゲンが私に身体を触れさせることを許したのはこのときが初めてだ。
小次郎#10


私は試しに猫同士の挨拶である『鼻キス』のつもりで、人差し指をシンゲンの鼻先へ近づけていった。 もちろん恐るおそると。
小次郎#11
小次郎#12
したところシンゲンは、鼻をくっつけてこないで私の指にいきなり咬みついた。
甘噛みでなかったら、私は指をそのままシンゲンの口の奥へ突っ込んで怪我を防ぐつもりだった。



コジローは身動ぎせずに、私と戯れるシンゲンをただじっと見つめていた。
小次郎#06

数日後に体調を大きくくずした私は、それ以降何ヵ月も海岸へ行けなくなり、結局ずっとあとになって確認した。

私がコジローの姿を見たのは、この日が最後だったことを。



〈つづく〉



脚注
※〔1〕出典 パーソナルスペース - Wikipedia
※〔2〕『傷だらけの天使』1974年10月5日~1975年3月29日に日本テレビ系で放送された異色の探偵ドラマ。
   監督:深作欣二・工藤栄一・児玉進 音楽:井上堯之・大野克夫 出演:萩原健一・水谷豊・岸田今日子・岸田森



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Comment

勉強になりました。

パーソナルスペース知りませんでした!凄く勉強になりました!
コジローとシンゲンのやりとり!本当にwabiさんの言ってる通りのやりとりに見えますね〜(笑)

No title

こんにちは
コジロ―のこと・・読ませて頂いた記事に 何回も出てきてくれているのは
覚えているのですが・・ しっかりした記憶が残っていません。また 更新を
待ちますね。(勝手に待つので 気にしないで下さいね(^-^;)

ペットショップのこと・・今日 とても心に強く思うことがあり・・
今までは ペットショップで生計を立てておられる方のことや 需要と供給で
成り立つペット業界が、(小さな命の尊厳や権利)を考えれる業界へと 
変わるのは難しいだろうと・・ 命を売ることが(普通)のこととなっている
この日本で (普通になってるけれど 変えた方がいい)とは 誰も 思って
くれないだろうと・・    
そこで 悲しいけれど あきらめてしまっていました。
でも 自分に何の力もなくても 微力(微力もなくても)でも これからは
考えていこう・・と思いました。

暖かったのが 寒くなり・・ 風邪などひかれませんよう気をつけて下さいね♪

のんちわわさんへ

パーソナルスペース

何年か前にブログで取り上げたと記憶しているのですが、
そのときは今回のように詳しい説明はしませんでした。

やはり見知らぬ人に近づかれるとイヤーな気持ちになりますよね。
なわばり意識の強いネコならなおさらでしょう。
物言わぬネコの気持ちを常に考えていたいものです。

ねこ眠りさんへ

ペットショップ

コジローは『浜の伊達男』と呼ばれているほどクールなヤツです。
まあ、私が勝手にそう呼んでいるのですが。(笑)

世界でもこれだけ野放図にペットの生体販売をしている国は
少なくとも先進国にはないでしょうね。
飼われているペットも法律で守られているくらいですから。
そんな国から比べると日本はずいぶんと遅れています。
動物愛護については完全に後進国ですね。

No title

少し前から、覗かせていただいています。

小さい頃にねこを飼い、最後は大学進学で看取ってやれなかったんです。
いじめも、独りの淋しさも、受験勉強も、浪人生活も、そばにいてくれました。

何年か前、近所にゴルフクラブを振りながらドーベルマンを散歩させる爺さんが居ました。
「小さな子どもも通る道なのに、なんであんなの振りながら…」と思っていたんです。
ある日、見てしまいました。
野良猫のえさ場でご飯を食べている猫たちに向かって、ドーベルマンのリードを外し、「行け!」と命令して狩らせているのを…。

とりとめの無い書き込みですみません。
前ブログのミケの写真に惹かれて、つい、行ってしまいます。

寒さ厳しい中、どうぞご自愛下さい。
気持ちが落ち込んでしまいますから。

No title

パーソナルスペース勉強になりました。
僕も様ノラ猫の撮影をするのでストレスをかけないように注意しながら撮影をしたいと思います。

ねこさんへ

はじめまして。

更新もコメント返しも遅いブログでさぞや呆れていると思いますが、
これが私のペースなので諦めてください。(笑)

さてドーベルマンを野良猫を襲わせるジジイに天罰をくだることを祈っています。
現在では動物愛護法違反で、1年以下の懲役または200万円以下の罰金に処せられる犯罪です。
今度目撃したら警察に通報じてください。
私も数年前に同じような目に遭った海岸猫の話を聞きました。
世の中には何処にもこのような“鬼畜”がいるのです。
悲しいことですが。

私へのお気遣いありがとうございます。

マモさんへ

ブログ拝見しました。

素敵な写真ブログですね。
残念ながら私はまだ“北の大地”へ行ったことはありませんが、
友人がいるのでいつか訪ねてみたいと思っています。
それにしても北海道の野良猫たちは寒さの厳しい冬をどうやって
凌いでいるのでしょう。
脂肪をたっぷり溜めこんでいるいるのでしょうか?

No title

暖かいコメントありがとうございました。

過酷な環境で暮らす野良猫さん・・・心が痛みます。
私の場合、癌患者ですから
本来は自分で世話をするのは分不相応かも知れません。
でも放置出来ないんですよね。

命が続く限り頑張ります。

ROUGEさんへ

儚い命

ご病気のことはブログを読んで存じています。
だからといって、“分不相応”などと仰らないでください。
『命』の大切さを知っているROUGEさんだからこそ
できることがあります。

小さく儚い命を護ることは容易ではありません。
まして外で暮らす子たちには何が起こるのか、
また起こってしまったのか、分かりませんから。

今回のイースレイちゃんのことでご自分を責めるのはやめてください。
ROUGEさんはイースレイちゃんを精いっぱい護ったのですから。

No title

いつも、海岸でお世話してくださる方のお水では足りないのではないか?海水を飲むわけにいかないしと 思っていましたが、親切な方がいらしたのですね。

コジロー、シンゲンの車のところでぺシーンしている姿は 微笑ましいですが、
その後はどうなったのか。。

家のトラの血尿は止まりました。😺

おこちゃんさんへ

コジローとシンゲン

元々ここのエリアの猫たちは、この家のおばあさんが世話をしていました。
そのおばあさんが亡くなって、今のボランティアさんが引き継いだのです。
だから今でもこの家の人は猫たちを大切に思っているのでしょう。

コジローは他の海岸猫との接触を極力避けていたのですが、シンゲンとは打ち解けていました。
おそらくはシンゲンがコジローにしつこく近づいていったと思われます。

良かったですね、トラちゃんが快方に向かって。
猫は逞しい生命力を持っていますが、身体が小さいために罹患したら
脆いという一面も併せ持ってるのでひきつづき気遣ってあげてください。
非公開コメント



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