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wabi

Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

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★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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2010年1月23日
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捨て猫エレジー (後編 1)


暦の上はもちろん実質的にも春を迎えているのだが、今年の春は牛歩のような緩慢な歩みに徹して一向に気温が上がらず、季節はずれの肌寒い天気がつづいている。

記録的な暖かさに終わった “冬” が、まるで自分の不作為を反省し、その汚名返上のために捲土重来を期しているかのようだ。


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何はともあれ春の到来が遅れている事態は、私にとっては僥倖に他ならない。

なんとなれば私が調子を崩すのは、日ごとに気温が上昇する春先だからだ。

この時期をことさら厭うのは自分だけの気質によるものだと長らく思い込んでいたのだが、多くの人が同じように嫌忌していることを私はやがて知ることになる。


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というのも、自殺者が多い季節は春であり、わけても3月は1年を通して最も多いと内閣府が発表したからだ。

そして内閣府はその統計結果をもとに、3月を『 自殺対策強化月間 』と定め、これまで以上の対応策を講ずると表明した。

3月に自殺者が多い原因としては、私のように『 木の芽時 』と呼ばれる季節の変わり目自体に精神が影響されることに加えて、新年度を目の前に進学、転校、就職などの新しい環境の重圧を受けるためだと言われている。

ちなみに、内閣府がおこなった自殺防止策は実際に自殺者の減少に効果があったのかどうか、私は寡聞にして知らない。


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それはさておき‥‥、春が足踏みをしている間隙をついて私は再び海岸へ赴くことにした。



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名を呼ぶと、チビ太郎はいつものように灌木の奥からすぐに姿をあらわした。


眼の状態はこころなしか前回より悪化しているように見受けられる。
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やがてチビ太郎は何かを訴えるように鳴き声をあげはじめた。前回会ったときは殆ど声を発しなかったチビ太郎だけに、その声音からはある種の切迫感が感じとれる。


チビ太郎の眼はボランティアさんの手により何らかの手当を受けているのか、もちろん私の与り知るところではない。
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それにたとえ実情を知っていたとしても、今の私に口を差しはさむ筋合いなど微塵もありはしないのだ。


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チビ太郎はおもむろに腰をあげると、ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。


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そうしてチビ太郎は私の足もとまでやってくると、にわかに穏やかな表情をつくり鳴き声も発しなくなった。


そこで私はポケットから取りだしたティッシュでチビ太郎の両眼にたまっていた眼ヤニをそっとぬぐいとる。

そのあいだ、チビ太郎は腰を下ろした姿勢で身動きもせずにおとなしくしていた。

たとえ人馴れした猫であっても眼を触れば嫌がると思うのだが、それゆえチビ太郎の神妙な態度はかえって哀れみを誘う。


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私がエリアの中を見まわっていると、チビ太郎は後を付いてくる。


それならば、このままエサ場までチビ太郎を誘導して食事を与えようと私は思った。
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ところがそれなりの訳があるのだろう、チビ太郎はとつぜん立ち止まりその場に座り込んだ。


私も立ち止まりチビ太郎に話しかける。「どうしたチビ太郎、ゴハンを食べにエサ場へ行こう」
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しかしチビ太郎は無言のままで動く気配を見せない。


ならばと私もチビ太郎の正面にしゃがんで、その幾分困惑した面持ちから彼の思いを推測してみることにした。
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たとえ村上春樹の小説に登場する『 ナカタさん 』のように猫語を解さなくても、猫と長年付き合っていれば、彼らの気持ちを汲みとれるようになる。もちろん飽くまでもおぼろげにというレベルでの話だが。


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チビ太郎はどうやら、私がいつも利用しているエサ場で食事をするのは、あまり気が進まないようだ。


そこで私はチビ太郎の意向を汲みとり、もうひとつのエサ場で食事をさせることにした。

このエリアにエサ場が2箇所あるのことは当初から知っていたが、私は灌木に囲まれた狭隘なエサ場をあえて避けていた。

なんとなれば、相性の悪い猫たちに食事を与える場合、そこはあまりに狭くて不都合だったからだ。

しかし改めて思えば、たまにほかの猫の姿を目にすることがあるが、実際にこのエリアに棲みついているのは今やチビ太郎だけで、もはやなんの差し支えもない。


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私の推察した通り、灌木の茂みの中にあるエサ場で待っていると、じきにチビ太郎もやってきた。


チビ太郎の嗜好は先日把握したので、今回も同じ猫缶を持参してきている。まずはそれを与えた。
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私がチビ太郎にしてやれるのは、こうしておやつ代わりに猫缶を与えることくらいだ。


「チビ太郎うまいか?、足りなかったらお代わりもあるからお腹いっぱい食べな」と言ってはみたものの、先述したように何回かに分けて少しずつ食べるのが猫本来の食性だ。
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猫缶を美味しそうに頬ばるチビ太郎を見ているだけで、私の心は安らぎを覚える。ただし、ほんの束の間に過ぎないが。


しかしそうであっても、今のチビ太郎の状態を考えれば、普通に食欲があるだけでやはり安堵する。
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叶うものなら、このまま小康状態を保ち長靴おじさんとの再会を果たしてほしい。


チビ太郎にしたって、“親” である長靴おじさんにもう一度会いたいはずだ。
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ただその件についてはひとつ気がかりなことがある。それはチビ太郎が病に罹っている事実を長靴おじさんは知っているのか、ということだ。


仄聞したところによると、長靴おじさんは入院後も時折チビ太郎の様子を見にきていたようだが、チビ太郎が罹患してからはそういう目撃談を耳にしていない。
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あるいは知っていながら何らかの理由により海岸へ足を運ぶことができないのだろうか?


そのとき、この場にはまったくそぐわない1枚の貼り紙が、何気なく巡らせた私の視界に入った。
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このたぐいの貼り紙は、ホームレスの人が無断で建てたテント小屋の側で幾度も目にしている。だが猫のエサ場で見るのは初めてだ。


隅に貼られたボランティアの人の切実な訴えが役人の良心を目覚めさせたからか、実際に猫ハウスなどを撤去していないから良いようなものの、私としてはやはり理解に苦しむ行為である。
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もっとも書面の最後にあるように、役所の助力を得て努力さえすれば、野良猫に自立の道が開けるというのなら話は別だ。


そんな益体もない考えに耽っているうちに、チビ太郎は食事を終えたようだ。
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やがてチビ太郎は緩慢な動きで発泡スチロールの蓋から降りる。


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半分ほど残したが、この場合は猫缶を咀嚼できる力をチビ太郎が未だに持っていることを喜ぶべきだ。


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周りを灌木でかこまれた狹いエサ場の隅にうずくまるチビ太郎。彼の脳裏にはいったい何が去来しているのだろう。


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実の母や兄弟との束の間の暮らしを思い出しているのだろうか?

またはある日突然、その家族から引き離されて、薄暗い防砂林に独り置き去りにされたときの恐怖を思い出しているのだろうか?

それとも手作りのテント小屋で長靴おじさんと過ごした、心安らぐ日々を思い出しているのだろうか?

あるいは長靴おじさんが病を得て、自分を残して海岸から去ってしまったときの驚きと戸惑いを思い出しているのだろうか?

やはり、身体を損なってから今までの、辛く苦しい思いにとらわれているのだろうか?


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しかしチビ太郎の胸底深くに秘められている本意を、私は推し測ることができない。

「チビ太郎、お前をこんな境遇におとしいれたニンゲンに対して思いの丈を声高に叫んでもいいんだぞ」

私はそう話しかけたが、チビ太郎は名もない空間を見つめるばかりで何も語ろうとはしなかった。


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私はほかの海岸猫に会うために、チビ太郎をそのままにして灌木の中のエサ場をあとにした。


だがこのとき、私はまだ知らなかった‥‥。

チビ太郎の病は私が考えている以上に進行している事実を。



〈つづく〉



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Comment

No title

こんにちは 
体調が保ちにくい今の季節・・ お身体に くれぐれも
気をつけて下さいね。(ご心配をおかけしていたかも
知れない私が ごめんなさい(^-^;)

「猫たちに罪はないので・・」そう書いて下さった方がいて 
猫ハウスが撤去されていなくて ほんとうに良かったです。
これからも 壊されないといいのですが・・心配です。
  
記事の最期の チビ太郎のことが気がかりで・・・切ないです。


 

ねこ眠りさんへ

猫ハウスは壊されます。

お気遣いありがとうございます。

実際に防砂林で作業する人たちは猫たちに優しいです。
だから貼り紙も融通のきかない役所の決まりで貼ったのだと思います。
でも猫ハウスは破壊されます。
猫嫌いな人の手によって。
猫ハウスをいくつも設置しているボランティア人が嘆いていました。
「作っても作っても、壊されていく」と。

最近は鳴りを潜めていますが、かつては私も腰痛で苦しみました。
これから不順な天候がつづきますから、どうかご自愛ください。
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