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wabi

Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

⇒旧ブログはこちら

★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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臆病な猫 (前編)






その海岸猫と最初に出会ったのはいつだったのか、私はなかなか思い出せないでいた。

そこで撮りためている写真から検索することにしたのだが‥‥。

2012年以前の写真データはハードディスクからDVDへ移動してあるので、思いのほか時間を要する作業になった。

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検索する前は、その海岸猫との初見は旧ブログを開設してから2、3ヵ月経ってからだと思っていたのだが、あに図らんやわずか8日後の2009年11月初旬だったことが判明した。

つまりはこの海岸猫と知り合ってから、すでに6年半もの歳月が経っていることになり、私が関わってきた海岸猫の中では最長である。

091101_ビク_001b

下に掲載したのが初見のときのワンショット目の写真だ。
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さて、『 東のエサ場 』と呼んでいたエリアに棲む、このキジ白柄の海岸猫に対して私がいだいた第一印象を端的にいうと “臆病な猫” だ。

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常に周りを警戒し、小さな物音やちょっとした気配に過敏ともいえる反応を見せてびくびく怯えているから、私はいつしかこの海岸猫を『 ビク 』と呼ぶようになる。


ビクは当時5歳で、ニンゲンでいえば30代半ばのレディーだった。

やや太り肉(じし)ではあったが‥‥。

2012年の秋ころから『 東のエサ場 』に出没するようになったチビ太郎を、ビクは蛇蝎のごとく嫌い、ついには別のエリアに移動してしまった。

そして、それまで高かったビクの出現率はこれを契機に急低下する。


2016年初春、私はビクに会うために海岸へ赴いた。
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防砂林へ向かって名を呼びつづけていると、10分ほど経ったころに、周囲を気にしながらおどおどした様子でビクが姿を見せた。
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そして、いったい誰に向かって何を訴えようとしているのか、ビクは小さな鳴き声をあげる。


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さらに私の背後を見つめながら「ミャオ」と鳴いた。念のために振り返って確認したが、ビクの視線の先には誰もいない。


私はビクに話しかける。「ビク、久しぶりだな。また会えて嬉しいよ」
だがビクは私を一瞥もせず、名もない虚空を凝視するばかりだ。

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数秒間そうしていたと思ったら、今度はいきなり「ミャーオッ!」と大きな鳴き声を発した。


その直後、ビクは凛然とした態度で向き直ると、私の顔を正面からひたと見据えた。
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ビクの無垢な双眸に見つめられた私は、彼女にその気がないとしても、日頃の無沙汰を責められているようで、自ずと居心地の悪さを覚えてしまう。


こういうとき、ニンゲンは思わず弁解したくなるものだが‥‥。

それが建前であろうが本音であろうが、ニンゲン社会で通用する言い訳など、実直に生きている猫たちにはいっさい通用しない。

ニンゲンの虚実の仮面など、研ぎ澄まされた猫の本能の前では何の役にも立ちはしないのだ。

だから猫と真剣につきあいたければ本意からの言葉に加えて、実際的な行動が必須になる。


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ビクはくるりと身を翻すと、軽快な足付きで植込みの方へ歩いていく。私を忘れてしまったのだろうかと、一抹の不安が脳裏をかすめる。


そんな私の想いを知ってか知らでか、ビクはおもむろに防砂柵へ前足をかけた。
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腰を引いた珍妙な格好で伸びをしているように見えるが、爪を研ごうとしているのだ。おそらくは。


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ところがビクは防砂柵にかけた前足を1ミリも動かすことなく体勢を立てなおした。


結局ビクは何をしようと思ったのだろう‥‥?
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このように猫の行動はニンゲンにはなかなか見通せない。けれどこういう融通無碍ぶりも猫の魅力のひとつなのだ。


以前のビクなら私を認めると、足もとに寄ってきては背中を撫でることを強要していた。しかしこの日はどうも様子が違う。
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前回会ってから1年半という空白がある。もしかしたら、そのことがビクの心境に何らかの変化をもたらしたのかもしれない。


ビクに言い訳は通用しないが、読者の方には一言断っておきたい。
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その1年半の間に、私は何度かビクを訪ねている。ところがビクは一度も姿を現してくれなかったのだ。


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警戒心の強いビクの性格を考慮し、私は人目につかない防砂林のなかへ足を踏み入れた。


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ビクも私のあとを追って防砂林に入ってきた。だがネット近くで歩みを止め、それ以上奥へ進むのを逡巡している。


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そこでいささか姑息な手段ではあるが、食べ物で懐柔することにした。


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生憎こちらが風下だが、犬には及ばないものの、猫の臭覚はニンゲンの1万倍から10万倍もあると言われているので、ビクは猫缶の匂いを感じとっているはずだ。


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こういう場合はただひたすら待つしかない。焦ってこちらからモーションを起こすと、人馴れした猫でも逃げてしまう。


ちなみに猫は他のネコ科の動物と同様に優秀なハンターだ。

ネコ科の狩りの方法には、待ち伏せ作戦と忍び寄り作戦がある。

待ち伏せ作戦でいうと、野生のトラは獲物を得るためなら丸一日でも身じろぎしないで潜んでいられるという。


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そんな辛抱強いネコ科の動物とつきあうには、こちらにも相応の忍耐力が求められる。

だからけっして焦らず、自若とした態度で臨まなければならない。


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とはいうものの、防砂林に入ってそろそろ15分が経とうとしていた。

丸々と太ったビクの体型からは食事環境の良さがうかがえる。

つまり飢えてはいないということで、猫缶での懐柔作戦も効果がなさそうだ。

致し方ない、今日は顔を見られただけで良しとして引きあげよう、と私が諦めかけたそのときだった。








ビクが慎重な足取りで、猫缶を盛ったトレイに近づいてきたのは。
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そしてビクはトレイの少し手前で立ち止まると、まるで毒でも入っていないか吟味するようにトレイの中身を仔細に眺める。


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やがて納得したようで、おずおずとしながらも猫缶に口を付けた。


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ただその食し方はきわめて悠揚としている。やはり推測したようにあまり空腹ではないようだ。


こうして間近でビクを見ていると、あの “おぞましい事件” が否が応でも想起される。
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その事件とは、2歳のビクの身に降りかかった凄惨な出来事だ。

幸いにも、当時世話をしていたKさんの適切な判断と敏速な行動によって、ビクは奇跡的に一命を取りとめたのだが‥‥。



〈つづく〉



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