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wabi

Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて2009年10月に旧ブログを開設

そして2015年9月に当ブログへ移転

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★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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逆境にもめげず健気に そして懸命に
生きぬいている野良猫たちの哀切物語

『 海岸猫 』とは海岸で暮らす野良猫

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午後の巡回 (後編 1)

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リンとサキの母娘のあとにつづいて防砂林の奥へ進んでいくと、まずサキを発見した。

踏み分け道から離れた樹上にいたとはいえ、あやうく見逃すところだった。

なんとなればサキは木登りが苦手、という印象をもっていた私にとって木のうえというのはまったくの盲点だったからだ。


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しかし考えてみれば、私がサキは木登りが苦手と思いこんだのは、彼女が1歳にも満たない幼い時期であり、今は成猫になっているのだから、心証をあらためるべきかもしれない。


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動きが機敏で木登りが “十八番(おはこ)” のリンのDNAをサキは正当に受けついだようだ。

サキにとってのリンは母としてだけでなく、年長の野良猫として格好のロールモデルでもあるのだろう。


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そのリンの影響か、サキの私への警戒心は最近になっていくぶんやわらいで、ときおり身体をすり寄せてくるようになったのだが、まだ完全には懐いていない。(世話をしているボランティアの人にはだっこされるほど馴れている)

生まれてからの3年間リンはホームレスの世話を受けていた “半野良” の状態だったのに対し、サキは生粋の野良猫だということが原因だろうと思っている。


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「野良猫として生き永らえるには、いかなる状況であってもけっして警戒心を緩めてはいけない」

この私の思いは海岸猫とのかかわりを深めるごとに強くなり、やがて確信に変わった。


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そしていつの頃からか私は、海岸猫のほうから近寄ってこないかぎり、こちらからは彼らに近づかないようになった。

前回の記事で紹介したように、野良猫の死因として『ニンゲンによる虐待』が含まれているからには、彼らはニンゲンへの警戒を軽々に解くべきではないのだ

だからサキに対応する場合にも、言うところの『猫の逃走距離』の領域に私からは侵入しないように留意している。


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こうした何気ない日常生活のなかでも、リンは野良猫として生きるための勘どころをサキに教示しているのだろうか。


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それとも今はただ、サキに木登りの指導をしているだけなのだろうか‥‥、リンとの付き合いが長い私にも、さすがにそのへんの実態はわからない。


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ふたりはしばらくして地面に下りてくると、松の幹をはさんで並び立った。


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そして耳うちでもするような軽いあいさつを交わすと、母娘揃って表情をひき締めて正面を見据える。


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やがてリンとサキは意を決したように、ほぼ同時に枯れ草を踏みしめて前進しはじめた。

まるでどちらかが「さあ、行くわよ!」と掛け声をかけたかのように。


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ふたりが向かったのは、防砂林のいたるところに設置されている『掲示板』だ。


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若いサキにとってはこういう人工物も、家猫にとってのキャットタワーと同様に好適な遊具なのだろう。

猫は遊びの達人で、自然物・人工物問わず、あらゆるものを『遊び道具』にしてしまう。


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小石や落ち葉、小枝、鳥の羽根、虫の死骸など、防砂林では猫の “おもちゃ” に事欠かない。

むろんこういう物とたわむれるのも、猫が持つハンターとしての本能の成せる業であり、野良猫として生きていくための実践的な学習でもあるのだ。


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また樹上や塀のうえなどの高いところを猫が好むのは、獲物を発見しやすいことに加え、危険な状況をいち早く察知でき、外敵に襲われる危険性がひくいからである。

つまり木登り技術の巧拙は、野良猫にとって死活上の重大問題でもあるのだ。


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先述したように生後3年間はホームレスの世話を受けていたとはいえ、リンが今年の4月に7歳をむかえて野良猫の平均寿命を超えたのも、彼女が身軽で木登りの名手であることが大きな要因だと私自身は推測している


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だからこの日、それなりの高さの木にサキが登っているのを見て少なからず安心したのだが、おそらくまだまだ木登り巧者のリンの域には達していないと思われる。

もしもサキがこれからも野良猫として生きていかざるをえないのであれば、今以上に木登りの上達が不可欠だろう。


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もちろんそれだけでは不十分で、猫が高所を好む理由にも挙げた危険を速やかに感知し、それをうまく回避する能力を身につけないと野良猫は生き残れない。


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掲示板のうえで小枝を相手に遊んでいる娘を真剣な眼差しで見つめていたリンだったが、ふと視線をそらせて渋面をつくった。

ひょっとしたら「まったく、益体もないことに夢中になって、ワタシをいつまで待たせるつもりなの」と苛立っているのかもしれない。


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スーパーやデパートの玩具売り場とかゲームコーナーからなかなか離れようとしない子どもに手を焼く母親のように。


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そんな母の気配に気づいたのか、サキは不意にふり返ってリンを見た。


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私の見ている前で、リンとサキの視線が交錯する。


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するとサキは母の真意を感じとったのか、掲示板からあっさりと跳び下りた。


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サキはそれからリンに目もくれないで、すたすたと防砂林の奥へ進んでいった。


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残されたリンはその場に留まったまま大きく眼を見開いてサキの後ろ姿を凝視している。


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ややあってリンはやおら腰を上げると、ややうつむき加減のまま大きなストライドで移動しはじめた。


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そして私のすぐわきを足速に通りすぎっていった。まるで私の存在など眼中にないとばかりに。



〈つづく〉



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