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wabi

Author:wabi


治療の一環として始めた海岸散策。
そこで知り合った海岸猫たちと交流を
深めるうちに彼らの魅力に心惹かれて
2009年10月に旧ブログを開設。
そして2015年9月に当ブログを新設。

★プロフィール写真は元海岸猫の愛猫

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逆境にもめげず健気に そして懸命に
生きぬいている野良猫たちの哀切物語

「海岸猫」とは海岸で暮らす野良猫

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好奇心 (前編)

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『怖いもの見たさ』という慣用句が表しているように、我々ニンゲンはある事象の危険性を予想しつつも自ら近づいていくという矛盾した行動をとることがままある。

こういうように、恐怖心と好奇心という相容れない心理を胸の裡に共存させているのは何も我々ばかりではない。

猫とかかわりを持ったひとならご存知だろうが、猫はきわめて警戒心がつよく用心深い動物だ。

ところが一方、猫はとても好奇心が旺盛な動物でもある。

今回はそんな猫の心の葛藤を垣間見たと感じさせてくれる出来事があったので紹介しよう。


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私がエリアを訪れたとき、リンは何をするでもなく、樹間から差し込む西日に目を細めながらただぼんやりとたたずんでいた。


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そのとき何かの気配を感知したのか、リンはふいに後ろを振りかえる。


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リンの視線が注がれた方に目をやると、サキの姿があった。


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サキはゆっくりとした足つきでこちらに近づいてくる。


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そしてリンにすり寄ると、鼻先で軽くあいさつをした。

「お母さん今日は、ご機嫌いかがですか?」とでも言うように。(リンはいささか煩わしそうだ)


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サキはそれからレンガ道の奥を見つめながら、思案顔をつくる。

あくまでも私の想像だが、今日はこれから何をしようかな、と考えているのかもしれない。


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しばらくそうしていたサキだったが、心を決めたようにリンから離れると、しっかりした足取りでレンガ道を防砂林の奥へと向かっていく。


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やがて娘に促されるようにリンもおもむろに腰を上げ、サキのあとを追ってレンガ道を歩きだした。

が、その歩調は緩慢で、更に途中で何度も足をとめては周りに目をめぐらせる。

そんな母を気遣ってか、サキは少し前方でリンが追いつくのを待っているようだ。


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ところがそんな娘の気持ちを知ってか知らでか、リンはその場に座りこむと大きなあくびをした。

といったふうに、リンはやる気のないこと甚だしい。

もしかしたらリンとしてはエリアの巡回などせずに、できれば陽当りの良い場所でまったりとしていたかったのかもしれない。


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ようやくその気になったのか、リンは表情をひき締めゆっくりとではあるが、力強い足運びでサキのあとを追いはじめた。


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たいていは人目につかない防砂林の踏み分け道を通ってエリア巡回をするふたりだが、この日はレンガ道を使うことにしたようだ。


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それからリンとサキの母娘は、代わるがわる前になったり後ろになったりしながらのんびりと巡回をつづけていった。


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さらにはレンガ道の脇にある松の木でいきなり爪研ぎをはじめたりする。

融通無碍な生き方を旨とする猫のこと、その行動は思いつくまま気分の赴くままといった感じで、きわめて恣意的だ。少なくとも私の目にはそう映る。

ところがである。


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私がふたりを追い越すやいなや、サキは松の木から慌てた様子で跳び下りると、私の脇を小走りで駆け抜けていった。

どうやら先導するのはあくまでも自分たちであって、ほかの者、とくに私に先行されるのは許容できないようだ。


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それまでの道草を食いながらのだらだらしたペースから打って変わり、サキは脇目もふらずに歩いていく。

これからどこへ行って何をするのか、その思いを定めたように。


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サキはレンガ道を外れても、真っすぐ前を見据えたまま灌木や木立のあいだを突きすすむ。

そして‥‥。


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ついにはエリアの境界であるフェンスも逡巡することなくあっさりと越えてしまう。

「いったいサキはどこまで行くつもりなんだろう?」私はいぶかった。


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リンも私と同じ気持ちなのだろうか、フェンスの手前で立ちどまると、娘の後ろ姿を真剣な眼差しで見つめる。

目の前にあるフェンスは縄張りの端であり、リンとサキがこのボーダーラインを越えて隣の区域に足を踏み入れることは滅多にない。


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娘のことが心配になったのか、リンはやおら腰を上げるとゆっくり足を運んでいく。


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そうしてサキにつづいてリンも縄張りの境界線を越えた。

それを見た私はきびすを返してレンガ道に戻り、足早にふたりのあとを追った。


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やや緊張しているのか、サキは尻尾を下げ心持ち姿勢を低くして、慎重な足つきで進んでいく。


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やがて我々の眼前に現れたのは、ショベルカーとかユンボ、バックホーなどと呼ばれている、いわゆる『掘削機』だった。

すでにこの日の作業を終えたのか、エンジンはかかっておらず、操縦席にはオペレーターの姿もない。


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さっきは境界線を越えるのをためらっていたリンだったが、私を追い抜くとさっさとショベルカーのキャタピラに跳び乗った。

どうやら警戒心より珍しいものへの好奇心がまさったようだ。


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それからリンはニンゲンがいないことを確認すると、軽く跳躍してキャビンのなかへ乗りこんだ。


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リンは周囲に目を配ったあと、床の匂いを嗅ぎながら更にキャビンの奥へと向かっていく。


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一方サキは操縦席よりキャタピラなどの足回り部分に興を覚えたのか、キャビンの下へもぐりこむ。


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冒頭でも述べたが、このように飼い猫などよりずっと用心深いはずの野良猫ですら変わったものや見なれないものに興味を示す。

我々ニンゲンの場合だと、好奇心に駆られるまま正体不明の事物にうかつに近づいたり首を突っこんだりしたら、思いもよらない災難にあったりするものだが。

猫の場合は果たして‥‥。



〈つづく〉



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